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メイカームーブメントのその先 〜HACKとROCKの現在形〜 開催レポート(前編)

By YouFab Global Awards 2017実行委員会

文=金岡大輝(YouFab Global Creative Awards 事務局)

去る9月19日、FabCafeが主催するYouFab Global Creative Awards 2017と、WIRED日本版が主催するCreative Hack Awardの合同で、メイカームーブメントのその先 〜HACKとROCKの現在形〜を開催しました。

今年で6年目を迎えるFabCafe主催のYouFab Global Creative Awards 2017 (以下YouFab)。今年のテーマはRock it。日本語に訳すなら「いっちまってくれよ!」「やっちまえ!」。

デジタルファブリケーション技術が一般化する中で、そのポテンシャルに気づいた産業界が積極参入するなど、製品としての洗練や完成度に、時代の興味が傾き始めているのも事実です。そういった背景のなか、3Dプリンターやレーザーカッターを使った直訳的な作品ではなく、「ひとはなぜモノを作るのか」ということや「作る動機」にもフォーカスしたいという思いを込め、今年のYouFabでは、Rock itというテーマを定めました。

一方のCreative hack Award(以下CHA)は既成概念を打ち砕く(=ハックする) ことから生まれる「野心的なヴィジョン」と、「国や地域にとらわれずに活動するためのビジネスマインド」を重視する、『WIRED』主催による次世代クリエイターのためのアワードです。

Creative Hack Awardは今年で5年目。「5年目の原点回帰にして全面改訂!ただしガチ『ハック』以外はお断り!」と銘打っており、YouFabの今年のテーマであるRock itにも通じるテーマを打ち出しています。

なぜ、いまYouFabとCHAはなぜ奇遇にも、作ることに対してある意味原点回帰的なテーマに定めたのでしょうか。

イベントの前半では、慶應義塾大学環境情報学部教授・SFCソーシャルファブリケーションラボ代表の田中浩也氏と、『WIRED』日本版 編集長 若林恵氏をお招きし、HackとRockをテーマにお話を伺いました。

 

メイカームーブメントのその先。新しい経済系。

(以下、田中=田中浩也氏, 若林=若林恵氏 岩岡=YouFab事務局、岩岡孝太郎)

(岩岡) メイカームーブメントについてまずFABを軸に振り返ると、2011年に日本で初めてのものづくり市民工房となるFabLabが鎌倉とつくばにオープン。その翌年に渋谷道玄坂上にFabCafeがオープンしました。さらに同じ年にクリス・アンダーソンの『MAKERS』の日本語版が出版され、この本でメイカームーブメントという言葉が広く認知されました。

また、fabcrossの記事によると、2016年末時点で、FabLab, FabCafeを含め日本では120箇所のメイカースペースが誕生しました。

この6年間の間に様々なワードが飛び交う中、新しい技術へのアクセスしやすさや、それを使ったクリエイターや起業家によるものづくり・サービス開発が加速してきたのは事実です。

とはいえ、どれだけの人が今メイカームーブメントの中を生きていると感じているかというと、疑問に感じるところもあります。

そして2017年、若林さんと田中さんに「メイカームーブメントって何だったんだっけ」というところから話を初めてもらおうと思います。

(田中)「流行としてのメイカームーブメントは一旦過ぎ去った」と認識している、というところから今日のトークをはじめたいと思っていました。「過ぎ去った」というのは、「ムーブメント」というより、「ブーム」や「バブル」に近い、一過性の現象のことです。台風で雨が降ったあとに、土から新しい植物が生え、何がジワジワ生まれてくるのか期待しています。

(若林) いつぐらいに通り過ぎたんでしょう?

(田中) やっぱり5年経ったら、そりゃあ一旦は通り過ぎるのが世の常だと思います。インターネットも、1995年~2000年くらいはすごくおもしろかったけど、黎明期はその5年くらいだと思うんです。ただ、バブルがはじけたからといって、「インターネットという技術自体」がなくなったわけではありません。同じように、台風が去っても、ファブラボもメイカーフェアも3Dプリンタも誕生し、きちんとしたものは、きちんと社会に残る。大切なのは、ここからだと思うんです。

ファブをデジタルとフィジカルの連結とか横断と表現しましたが、デジタルファブリケーションってデジタルな側面とフィジカルな側面の両面があると思います。その2つの間でどういう交換をして、価値を生み出すのか。インターネットが生まれてから、いくつもの新しいビジネスモデルが誕生したように、ファブにおいても新しいモノをつくることとセットで、新しいビジネスモデルを発明することに創造力を伸ばすべきだと思います。
一過性の流行に流されない持続的な文化をいかにつくり、将来にどうつなげるのか。その方が正しい意味で、「ムーブメントだった」と呼ばれうる何かになるはずです。

 

ROCKのはなし

(田中) 今日は僕が1977年に買ってもらったパソコンを持ってきたんです。35年前、ブリキを切って自分で外装をつくったものです。

これを買ってもらったのが幼稚園のころなんですけど、このマニュアルの表紙写真の衝撃。「なぜ皿の上に乗ってるんだ?」 という。

これは「自分なりに料理してください」というメッセージだと思います。フォークとナイフとスプーンがあって、自分なりに食べろと。技術を料理のごとく自分の食べやすい大きさに切って食べろということだと思います。これはあくまで素材であると。

こういうのがなんとなく「ROCK」という言葉から思いついたことです。ROCKは「未来につながっていく波」という感じ。1つではなく、振動が空間的にも時間的にも広り、集団の大きなうねりになっていく、というイメージです。

(岩岡) では若林さんのROCKを見てみましょうか。

(若林) ROCKといったらジミヘンしかないですよね。ジミヘンは世界を変えたと言える、二十世紀代表のミュージシャンです。

僕のなかでのジミヘン問題というのがあるんです。何かというと、「ロックを変えたのはジミヘンなのか? エレキギターなのか?」という問題。エレキギターがなかったらジミヘンはいないんです。画像はフェンダーのストラトキャスターですが、これ自体のイノベーションが世界を動かしたという言い方もできるわけ。一方で、フェンダーのストラトキャスターって実はけっこう前からある。フェンダーのストラトキャスターが世界を変えるためにジミヘンを必要としたとも言えます。それを「どっちだ?」と考えるのは、テクノロジーと人間の関係性というか、テクノロジーの進化と人ということを考えるうえで、問題だと思っています。僕としては両方どっちであっても正解だとは思うけど、51対49でジミヘンに軍配をあげるという立場なんです。

例えば、ミュージックビデオが世界にこれほど広まるためには、マイケルジャクソンじゃなきゃダメだったんです……みたいな。HACKとかROCKという話とは少しずれてますけど、それが僕の基本的な考え方としてあります。そこでやはり、人というのはすごく重要で。PCだってアラン・ケイとかからずっとアイデアとしてはあったんだけど、それが世界化するためにはジョブズのビジョンが必要だったという気はしています。

これはわりと根源的な立ち位置で、逆に言うとテクノロジーが世界を変えるというのは49パーセントしか信じていない。やはり、どうしてもジミヘンじゃなきゃいけなかったっていうことがあるんです。

 

HACKのはなし

(岩岡) ROCKの一方で、HACKについてはいかがでしょうか。

▲黒岩 比佐子(著) 『伝書鳩―もうひとつのIT』

(田中) 僕のHACKは伝書鳩なんです。

2003年くらいに、ニューヨークのアランダ/ラッシュ (Aranda/Lasch)という建築事務所が伝書鳩にカメラとGPSを積んで飛ばすということをやっていました。やはり、スマホが出てきたからこそ伝書鳩をもう一回よく考えてみる必要があると。

(若林) HACKって僕のイメージだと、「今まで通っていなかった回路を通す」とか、「今までつながっていなかったものにつなげる」みたいなイメージがあります。意外と新しい話ではない、という感じ。何かを再発見していくプロセスとか、見落とされていたものをもう一回見直すこととか、そういうプロセスのような気がしています。伝書鳩の話って過去にあったものをもう一回リバイブするっていう話だし、ターンテーブルも、既存の、当たり前の使い方をいかにずらしたり、解体していくかという話。

そういう意味では、HACKは、そもそも批評性をもっていないとできないという気はします。

 

特殊な環境から生まれる新しいメディア

(若林) 僕この前にベルリン行って来て結構勉強になったなと思ってるのは、ベルリンっていくつかの傷を持ってるんですよ。戦後でいうとナチズムっていう問題、そして東ドイツの問題、そして統合された後に残った荒野としてのベルリン。

東西ベルリンが統合されたとき、壁が崩壊して東西の住民が「さあ一緒に暮らしてください」となった時、それはかなりのストレスだっただろうと。その時にクラブカルチャーが果たした役割が非常に大きかった。しかもそれはテクノじゃなきゃいけなかった。
お互いが自分たちの歴史を背負わずに乗っていける、ある意味新しい文化だったから意義があった。

パソコンの黎明期の時、世間的にメインストリームじゃなかった人たちが希望を託せたのはそれが新しいカルチャーであったからかもしれません。ベルリンの人は「資本主義化したクラブはなんの意味もない。」と平気で言ったりする。「クラブカルチャーは実験や新しいことに価値があるんだ。そこには常に緊張があるべきだ」と。

つまりなんだこれ?というものを常に出してなんぼだと思うんです。
それはクソもあるかもしれないが、20年後に価値があるかもしれないというところにひたすら賭けてゆく。そしてそれをすぐには換金しようとしない。

このベルリンとクラブカルチャーの話は腑に落ちて聞いていられました。

ROCKとHACK。メイカーズムーブメントとまだ見ぬ可能性。メイカームーブメントのその先は、メイカームーブメントによってもたらされた新たな経済系と価値のもと、新しいものを生み出すという緊張感と既存の価値観をHACKした時に、生まれるのかもしれません。