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YouFab2015 授賞式レポート(後編)

By YouFab Committee

Fabとクリエイティビティのこれから

FabCafeが主催するデジタルファブリケーション・アワード「YouFab Global Creative Awards 2015」授賞式の様子をお伝えするレポート、後編。今回は、審査員が本音で語り合うトークセッションの内容をご紹介します。(レポート前編へ

(文=内田伸一)

トークのテーマは「デジタルファブリケーションとクリエイティビティのこれから」。登壇者は、田中浩也さん(慶應義塾大学SFC准教授/FabLab Japan 発起人)と、四方幸子さん(クリエイティブキュレーター)です。おふたりとも、国内外・各界からの専門家6人で構成されるYouFab 2015の審査員。司会はYouFab アワードチェアマンの福田敏也が務めました。

まず、やはり日本からの審査員で、この日は出席できなかった齋藤精一さん(ライゾマティクス/クリエイティブ&テクニカルディレクター)からのビデオメッセージが会場に流れました。

齋藤:新しいツールやマテリアルの登場が多かった去年は、それを反映した作品も多かった。対して今年はFabがより一般的になった状況を受け、目新しさだけでなく、機能性や安全性、将来性や発展性も考えた作品が受賞したと感じます。今後はバイオなどもより関わってくるかもしれません。ものづくりには、やや斜めからの見方も大切な気がします。ライゾマではよく(いい意味での)“技術の無駄遣い”という言い方をしますが、いろいろな方向から見尽くした中から出てくる面白さや、ビジネスにも使える発想というのがある。ぜひ、それができる環境がもっと広まっていったらよいなと思います。

続いて始まった田中・四方両氏のトークでは、まず今回のYouFab全体の印象が語られました。

田中:グランプリと準グランプリは先進的テクノロジーを使ったり、ギーク的だったりと、ある意味での優等生でしたが、審査員特別賞の作品群には、古い技術と新しい技術をどう融合させるか、文化と社会をどのように出会わせるか、といった多角的な視点がありました。また、ともすれば「ボタンを押したら簡単に何かが出てくるもの」と誤解されがちなFabにおいて、今回は時間と情熱とチームワークを注ぎ、地道な努力で生まれたものが多かったようにも感じます。

四方:応募作品が前回に比べて本当にさまざまで、それゆえ審査も去年とはまったく別ものになった印象です。まだまだこれからという作品も含め、その多様性が面白かった。結果、“これもいいよね”と多様性を受け止めるかたちで審査員特別賞が選ばれました。あるシーンが普及する時期と、それを受けて変化する時期があると思うのですが、Fabにとって去年・今年はそれが起きたのではと感じます。

そうした多様さがシーンの推進力にもなっている状況において、YouFabでも募集時に規定している「カテゴライズ」の意味とは何でしょう? この点について、ふたりはこう語ります。

田中:仮にカテゴリーの枠をすべて外しても、審査員が頑張りさえすれば成立するとは思います。また一般的に、デザイン領域では“デザインを超えたもの”を、またアートであれば“アートを超えた何か”を持つ作品を選ぶ意識が審査側には働きますよね。その意味では、ぜんぶ”Beyond”とも言える(笑)。一方で、作る側が作品をどの「目」で見てほしいか、との形でコミュニケーションする意味では、カテゴリーを付けるのもよいと思います。

四方:卵が先か、鶏が先か、という感じですよね。ただ、カテゴリーなしで(審査・解釈を)行うのは難しいところもあって、たとえば実際に(そのカテゴリーの)マーケットに入るかどうかというのもあるからです。ですからひとつの可能性として、仮にある程度は分けておいて、でもそこからはみ出るものも重要だよね、とする考え方がある。そして、その境界線の動き時代もFabと呼びたいですね。

審査の様子:「Products」「Art」「Hack」「Machines」「Beyond 」のカテゴリごとに審査が行われました。

ここで司会の福田が、齋藤さんもビデオメッセージで触れたある視点についての問いを投げかけました。従来Fabはプロトタイピング領域での活用が多いものでしたが、製品として扱える完成度にまで成熟している今、Fabの実験性と日常性の関係は、どうなっていくか?ということです。

田中:仮に、最初から製品化を狙っていなくても、たまたま友達と何かをつくり始め、たまたま知り合った別の人がそれを見て“もっとこうなるといいね”と言い、作品を進化させていく。そんな出来事が何度も重なり、最後は製品化に辿り着いたりすることもあると思います。Fabのものづくりには、そういうロールプレイングゲーム的なストーリーが宿ることが多くて、いわゆる「単線的」な、目的に向かって一直線、というのとは違うプロジェクトのスタイルが生まれているのではないでしょうか。とりあえずやってみるところから、あとは社会とのインタラクションで「ものがたり」が紡がれていく感覚です。

四方:たしかに、人と人がつながって何かが起きていくのが面白いところですよね。私が好きな作家にウスマン・ハク(註:モノのインターネット=IoTに特化した検索エンジン「Thingful」などの創出に関わる)という人がいます。彼はアートとデザインの領域を超えて創作し、かつその成果をみながシェアしていいという立場をとっている。そうして人々をつなぎ、ものづくりをエンカレッジして(仕掛けて)いく。技術だけでなく発想する力をも広めていく。これもFabの醍醐味だと思います。

 

これらの発言を受け、トークはさらに「Fabの触媒性」について広がります。Fabがつなげる場と場、人と人の関係は、ものづくりの可能性をどのように開いていくのでしょう?

田中:これまでデジタル技術・表現が入り込めなかった、接点が見出せなかった領域にまで、Fabによって入っていける面に興奮します。おばあちゃんの編み物とか、漁業・農業などの一次産業などがそうです。

四方:今回、伝統工芸と交わるような試みもありましたね。古いものや、もともとあったものとつながることで、新しい表現やコミュニケーションが生まれる。また、アート/サイエンスの現場でも、研究者がアウトリーチし、より広い人々が出会うなかで可能性が広がる面がある。そして、ソーシャル(社会的)に、よりいろいろなコミュニティと関わり、共に知ることでも何かできるのではと考えます。

話題はさらに、近年注目されるバイオロジー/バイオテクノロジーにも及びました。自然と人間がコラボするような創作がさらに進むとき、Fabはどんなものになっていくのでしょう?

田中:もともとFabには、デジタルデータ=情報と、マテリアル=物質とをどう繋ぐかというテーマがありました。3Dプリンタやレーザーカッターは、情報と物質を多様につなぐ道具として使われるようになりました。そのなかで、「生物」はDNA=情報でも細胞=物質でもある存在としていまスポットライトが当たっています。いま世界中のFabLabに併設のBioLabができていて、バイオ系の実験装置をfabでつくる試みも行われているんです。日本人ならたとえば、ぬか漬けのバイオ的試みとかが出てきたら楽しそうですね(笑)。

四方:私も、たとえば堆肥をつくる作家と話す中で、自分も酵母系のものを積極的に食べようとするようになることがありました。ですからこの領域はとても身近だとも言えるし、そこで全てがつながっていく感じもあります。

四方さんからは、循環ビジネスに挑戦するアーティスト、松坂愛友美さんのお話もありました。彼女のプロジェクト「DYCLE- Diapers Cycle」は、土に還る素材で作ったおむつを堆肥化して安全な土を作り、これを活かして果樹を植えるというもの。そこに、田中さんが反応します。

田中:バイオというと実験生物学のニュアンスがありますが、もうちょっと広い意味で、生態系のなかの資源循環に目を向ける方向性もあります。2016年から慶応大学田中浩也研究室では「フィールドFab」をキーワードにしていこうと考えているんです。じつは最近、あるきっかけから1,2ヘクタールの森林を頂いたんです。森という遊び場を得たので、まずは木の3Dスキャンです(笑)。また、最近病院に通っているのですが、自分の身体の中にも、CTスキャンでよく見るとものすごく複雑な小宇宙が宿っています。自分の「身体内部」という、自分の一番身近なところに、ものすごい深いフィールドがあった。そこも探索していきたい。

僕は、Fabとは基本的に“実験”だと思っています。YouFabではそこからどうフレーミングして作品に結び付けるかという課題をつきつけられていますが、だからといって、最初からフレームを意識して単に作品として作られるのであれば過去の美術と何も変わりません。やはり(実験性から)滲み出るものを注視しながら、それを表現に変えるための方法を試行していくことが大切だと思います。
四方:まずやってみること、トライ&エラーの大切さですね。アートの世界でも、そのための場所はもう美術館などの専門施設に限定されない。アーティストはそれを触発する存在にもなるし、だから、作品は完成したらとにかく世に出したほうがいい、とよく言っています。そこからフィードバックが生まれて、また進んでいくから。

田中さんからは、知人のお年寄りが最近、撮りためてきた昆虫写真を虫の3Dモデルに張り付けることに夢中になっている、というお話もありました。いまはそれを3Dプリントする試みも進めているそうです。「自然や生物を理解しなおすことに、改めて向き合うためのfab」もあっていいという彼に対し、福田からは「高齢者の活躍にもつながる可能性」が挙げられました。

田中・四方両氏に司会の福田も加わり、異なる専門領域からの視点が交差・共鳴したこの日のトーク。その様子じたいが、Fabの「つながる力」「触媒力」を象徴するようでもありました。
この日、会場のあちこちで受賞者や来場者が交流する光景も、そのことを印象づけました。コンテストとして「完成品」だけを扱うのではなく、現在進行形の発展プロセスにあるFabシーンの未来に向け、YouFabは続いていきます。次回はどんな表現が集うのか、早くも開催が楽しみですね。「つくる側」として参加する方々は、応募開始に向けてぜひ今からアイデアを磨いておいては?

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