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About YouFab

常識に挑む。常識に抗する。
常識をHackする。
そんなスピリットに溢れた挑戦に、YouFabは強く期待します。

Polemica!!
なにに、どう、タテをつく?

3Dプリンターというマシンが世に広く喧伝され、「これからはデジタルファブリケーションでなんでも作れる!」なんてことが言われるようになったとき、真っ先に危惧されたことは、それで銃をつくるような愚か者が現れるのではないか、ということだった。そして、実際、すぐさま、それは現れたのだった。そしてたしか、それはそこそこの殺傷能力を持つものだった。いずれにせよ、せっかくの3Dプリンティング技術が、なんらかの暴力装置をせっせと作るためにのみ使われたのでは、ニューテクノロジーも立つ瀬がない。暴力を支持するものとして、ではなく、むしろ新しい「美」を支持するものとして、デジタルファブリケーションを世に広めることをミッションに、このYouFab Awardは設立されたと聞く。正当なミッションである。

ただし。これには別の見方も可能だ。デジタルファブリケーションや、それによってもたらされる「製造の民主化」という事態は、むしろ「誰もが<銃>をつくれる」ところこそが、価値だったし、これからも価値なのではないか、と。とはいえ、誤解はしないでいただきたい。ここでいう「銃」はあくまでも比喩だ。なんの比喩か。「何かにタテをつくための道具」の比喩だ、とひとまずここでは言っておこう。

現在の産業社会における「ものづくり=製造業」は、国や大資本をもった企業が主導し、その技術や製造ラインを占有し、それによって市場を独占するところからはじまった。消費者は、ものづくりに関与することはできず「本当に自分が欲しいもの」を手に入れるためには、自分でなんらかの改造=ハックを施すしかなかった。

けれども、技術が一般化し、安価になるにつれて、ものづくりは、次第に「彼ら」主導のものではなく、次第に「私たち」のものとなっていく。アメリカ西海岸のヒッピームーヴメントに端を発するデジタルカルチャーの根幹にあるスピリットは、そうやって手にしたツールを使って、自分たちの暮らしを、自分たちの手で、自分たちのために作り直していくことを夢みたところにあった。自由や自律を求める運動のなかにあって、PCやインターネットは、何よりも政府や既存の産業に「タテをつくための道具」だった。

「メイカーズ」というコンセプトを世に広めた『WIRED』US版のかつての編集長、クリス・アンダーソンは、パンクムーヴメントが華やかなりし頃のワシントンDCで、学生時代を過ごした。

70年代後半から80年代初頭にかけて(実は、世界中で。そしてここ日本でも)起きたことは、録音機材が音源制作のコストが学生や若者たちに手に届くものとなったことで、それまでだったら決して世に出ることなどなかった、エクストリームでハードコアな音楽を、誰もが制作し、発信することが可能になったことだった。

それは、既存の音楽産業に対するアンチテーゼとして、瞬く間に若者のハートを掴んだ。安いMTRで録音された生々しい音源、コピー機で刷った手作りのチラシ。のちの「メイカーズムーヴメント」へとつながるD.I.Y.精神のすべてを、クリス・アンダーソンはDCパンクの世界で学んだのだと語っている。

既存の産業のあり方や、そこから生み出されるものに強烈な「NO」を突きつけることが、最も小さな個人にもできるようになることが、ここでは最も重要なことだ。インディペンデントであること、D.I.Y.であることの価値は、ここにある。そして、そこにもまた「美」はなかっただろうか? DCパンクの雄として知られたマイナー・スレットやバッド・ブレインズの音楽は、確かに従来の音楽の価値基準からみれば騒音に過ぎないものだったかもしれない。けれども、過去に設定された「美の基準」が、「本当に自分たちが求めている美なのか?」と問い返す自由もまたこちら側にはある。

というわけで、デジタルファブリケーションというものの本質は、かつてパーソナルコンピューターやインターネットといったものがそうであることを望まれ、期待されたように、権威やそれが作り上げた現状に抗い、タテをつくことにあった、とは言えるのだ。現状のオルタナティブを夢見るための道具。そして、それがそうであるのなら、3Dプリンターを使って何かをつくるというのなら、そうした態度で臨んでもらわなければ、せっかくの3Dプリンターも立つ瀬がなくなるというものだ。

今年のテーマである「ポレミカ!」は、かつてロフトワークと『WIRED』日本版が共同して行ったプロジェクトの名前を、そのまま踏襲したもので、「議論」とか「喧々諤々」といった意味だ。現状を鋭く問い返し、オルタナティブなあり方を提示するようなモノやアイデアを、との思いから、今年のYouFabのテーマとすることにした。歪でも未熟でもいい。新しい問いは、いつだって不安定で、賛否両論を巻き起こす。どんな現状に向けて、何にタテをつくために、それは作られたのか。問われるべきは、その「問い」の強度と深度だ。

若林 恵

編集者

1971年生まれ。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。以後,雑誌,書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。著書『さよなら未来』(岩波書店・2018年4月刊行)。

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福田 敏也

博報堂フェロー/Chief Creative x Technology Officer
大阪芸術大学デザイン学科教授
株式会社トリプルセブン・クリエイティブストラテジーズ代表取締役
FabCafe 共同設立者

多様なメディアでの Communicationをplanning / direction / consultingする。自らの会社777interacitiveでは企業の先端ニーズにこたえ、FabCafeではものづくりの未来を考え、博報堂では次世代型Creatorを育成し、大阪芸術大学ではDigitalDesign教育にあたっている。海外評価も高く世界のデザイン賞で多数の受賞歴と審査経験をもつ。