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グローバルアワード「YouFab」からつかむ、 新規事業創出の種

Mar.08, 2019

Background

「今日を愛する。」がコーポレートスローガンのライオン株式会社。1918年の設立以来、120年以上にわたって日々の生活を支えるプロダクトを製造しています。

20181月、ライオンの研究開発本部内に製品開発をする研究所ではなく、新規事業を生み出す研究所としてイノベーションラボが設立。歯磨き粉や洗剤といった100年以上前のイノベーションが継続してライオンのビジネスのコアになっていることへの危機感がその設立の経緯です。

ロフトワークとイノベーションラボはその設立当初からプロジェクトをスタート。イノベーションラボのコンセプトづくりや、リサーチを通じたライオンの新しい機会領域の設定を行いました。

 

さまざまな境界の繋ぎ目が「溶けあう」、これからの社会とわたしたちの生活

加速度的に変化している私たちの働き方や暮らし方の少し先の未来は、20世紀に引かれたライフプランから今後さらに多様化していくことが予想されます。会社組織と個人の関係性、仕事と家事と自分事、学びと遊び、パブリックとプライベート、デジタルとリアルなど、さまざまな境界の繋ぎ目が「溶けあう」社会ではどのような体験を求め、日々を過ごしていくのでしょうか?

イノベーションラボが設定したプロジェクトコンセプトは「MERGE ─ 仕事と暮らしが溶けあう未来」。このコンセプトをもとに、YouFab2018でライオン賞を創設。 世界中のアーティストから作品を募集すると同時に、関連イベントを通じたコンセプトのプロモーションや、バンコクでアーティストとの共同リサーチを実施しました。

MESSAGE 

ライオンは「今日を愛する。」というスローガンを掲げ、創業127周年の今を進んでいます。そして、我々が今目指しているのは、これまでの当たり前を‘REDESIGN’し、未来の習慣を作り出していくことです。

10年後の世界、「MERGE – 仕事と暮らしが溶けあう未来」では、どんな生活が待っているのでしょう?皆さんと一緒に未来を描き、共に創り出していくことを楽しみにしています。

Process

アワードの仕組みを使ったクリエイターコラボレーション

プロジェクトは2018年6月からスタート。「MERGE」というリサーチから飛び出した、いわば”ナマモノ”の言葉を翻訳して展開し、作品募集の際のメッセージ作りからスタート。同時に、審査基準の言語化や受賞者との将来的な共創についても見据えて準備を進めました。作品募集はロフトワークのアワード運営サービス「AWRD」を使用。プラットフォームを利用した、クイックなアワード運営が可能です。

イベントを通じたオープンなディスカッション

キックオフイベントではYouFabの新旧審査委員長が登壇。YouFab2018が、いまの世にとうべき作品についてハイコンテキストな議論が繰り広げられました。

田中浩也(写真左:慶應義塾大学 SFC研究所 所長, 環境情報学部 教授) /若林恵(写真右:YouFab2018審査委員長, 編集者, 元WIRED日本版編集長)

ワークショップでは、「MERGE」というテーマをもとに、2030年の少し先の暮らしについてディスカッション。

FabCafeの海外拠点を活用したリサーチ

日本でのリサーチで得た、キーワード「MERGE」。では、広くアジアに目を向けたとき、日々人びとはどう暮らし、働いているのでしょうか。リサーチの拠点はFabCafe Bangkok。2014年にオープンした3つ目のFabCafeです。

リサーチではバンコクに暮らし働く3人のペルソナに密着。そこにバンコクの現地のアーティストもチームにジョインし、2泊3日の合宿形式でプロダクトのアイデアを練りました。リサーチの目的は2つ。1つ目は、海外における「MERGE」を探ること、2つ目は、イノベーションラボにおける今後のアーティストとの共創プロジェクトに向けてのプレワーク。チームに分かれ、イノベーションラボメンバーとアーティストがタッグを組みリサーチを行いました。

Van(左):タイに古来から伝わる伝統的な民間療法にヒントを得た食材や調理法に現代的なアレンジを加え、独創的なタイ料理に挑戦し続けている。バンコクに複数のレストランを展開し、タイのグルメシーンを牽引する注目のシェフ。食や健康を自身の生き方にも投影する独自の強い思想を持つアーティスト。

Kanittha(右上):テキスタイルアーティスト。ファッションとしての織物だけではない、幅広いデザインを通じた織物の可能性を模索している。

Saran(右下):プロダクトデザイナーとしての知見と、ストーリーテラーとしてのテクニックを交えて、鋭い分析に基づく課題解決型のデザインを得意とする。グラフィックデザインからファーニチャーデザインまで、国内外の有名ブランドとのコラボを精力的に行なっている。

アーティストと一緒にペルソナに1日密着して、バンコクにおけるMERGEを探りました。世界10拠点に展開するFabCafeを通じて、それぞれの都市のローカルなアーティストやクリエイティブクラスターとタッグを組みながら現地でのプロジェクトやリサーチをクイックに行えるのもFabCafeの海外ネットワークの大きな魅力の一つです。

バンコクに身を置いて見えてきたのは、日本のリサーチは全く違うペルソナのマインド。日本でのリサーチを踏まえ飛び出した世界で、自分たちのテーマを一度立ち止まって考えるとてもいい機会になりました。

世界各国から集まった作品を通じた機会領域の模索

ライオンチームとYouFabチームで何度も打ち合わせを重ね、その審査基準や審査の方向性を議論。数々の作品と、そのバックグラウンドとして示される未来の暮らしをひとつずつ想像しながら、作品審査を行いました。

ライオンチームも含めた審査員同士の本気の意見がぶつかり合い、喧々諤々のディスカッション。社内のディスカッションだけでは到達できなかった貴重な議論がいくつも巻き起こった瞬間でした。

YouFab2018 ライオン賞に選ばれたのは、ガダラによるプロジェクト「Hack the Natural Objects.」で生まれた石型のインターフェイス。“自然物”にセンサーなどの人工的な機能を組み込み、傾きによって音量や明量などのアウトプットをコントロールします。自然と人工が“MERGE”する日常、というコンセプトをプロトタイピングした作品です。

YouFab2018 ライオン賞受賞作品 「Hack the Natural Objects.」

もうひと作品、ライオン賞選外佳作として受賞したのは加藤明洋さんの「TRUSTLESS LIFE」。この作品は、近未来にブロックチェーン技術が実現するであろう未来の社会を、人と人とが対面でプレイするボードゲームとして表現することにより、多くの人々がその可能性と課題を想像できるゲームです。

YouFab2018 ファイナリスト (Lion honorable mention) 受賞作品 「TRUSTLESS LIFE」

プロジェクトの締めくくりには授賞式および受賞作品展を開催。海外からも受章者が駆けつけ、世界中のアーティストが一堂に会しました。会場は築91年の歴史的洋館 「kudan house」。テーマとして設定した未来の解釈をアーティストに問う。そしてその作品を通じて未来をみる。その試みはどのようなものだったのでしょうか。