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コロナウィルスがもたらしたひとつの大きな困難は、デジタルテクノロジーがもたらした変化に対するカウンターとして「フィジカルの良さ」「アナログの魅力」などを称揚し、そこに道筋を見出そうとする回路を一気に封じてしまったところにある。ストリーミングサービスの猛威に押されるかたちで、音楽関係者が「これからはリアルの体験が大事」などと語ってきたことなどがその一例ではあるが、そうした言説がいまひとつであると感じられてならかったのは、それらが常に雑だったからだ。


「これからは体験が大事」的言説は、ストリーミングサービスでNetflixをビンジウォッチングすることや、ランニングしたり自転車に乗りながらスポティファイのプレイリストを聴いたりすることを「体験」として考慮に入れてない点で論旨がぼやけてしまっており、結果、「フィジカルな体験」の価値(というものがあったとして)をきちんと定義するにいたらず、下手をするとただ古い人たちが古いことを言ってるだけのノスタルジアに収斂してしまう。

というわけで、コロナウィルスは「フィジカルが大事」というぼんやりした期待を見事に裏切る状況をもたらしたという意味において、スリリングなお題を世界に対して投げかけたわけだが、そうした状況を経た上でも「フィジカルは大事」だということに変わりがないのであれば、アフターコロナ(でもウィズコロナでも呼び方はなんでもいいのだがコロナウィルスがもたらしたさまざまな困難を体験した後)の世界では、人と人がこれまでのようには近くに寄り集うことができないという制限のなかで、「フィジカルは大事」ということの価値を再設計することが求められることになる。

トイレからペイメントにいたるまで、今後、社会のあらゆる場所や局面において「コンタクトレス」をもたらす技術や仕組みが実装されていくことにはなるはずだが、そこで構想されるのは、「いかに感染を防ぐか」という防御のシステムではあっても、ポジティブな「攻め」の提案とは言い難いだろう(公衆衛生上はもちろんポジティブなのだが)。

今回のYouFabでは、コンタクトレスがデフォルトとなった世界において、どうやってその環境のなかに、人間性、身体性、あるいは「リアルな体験」を設計・デザインしうるのか、というところに焦点をあててみることにしたい。それは新しいテクノロジーやシステムの提案であっても良いだろうし、新しい行動様式の提案であってもよい。対象となるものも、家だろうが、学校だろうが、オフィスだろうが、商業施設だろうが、服だろうが、乗り物だろうが、食べ物や食卓だろうが、イベントやフェスやデートや葬式だろうが、なんでも構わない。

せんじつめると、アフターコロナ以前からずっと大事だと言われてきた「体験」なるものを「コンタクトレス」という基軸から再設計し、それを再価値化することはできないものか、というのがお題となる。公衆衛生的/行政的観点から発動される「コンタクトレス」からこぼれ落ちるかもしれないけれど、人が人らしく暮らすために「それをちゃんと考えておくことは重要だよね」という見落としがちな(もしかしたらとてもくだらないものに思えるかもしれない)「体験」に光をあてるような、そんな提案を期待している。なぜなら、そうしたつまらないことかもしれないけれども実は大事かもしれない小さな発見は、こうしたアワードのように、自由な発想が許された場所で見出されない限り、ほんとうに見過ごされることになるに違いないからだ。

審査委員長
若林恵

審査委員長

若林恵

編集者

1971年生まれ。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。
早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。
2000年にフリー編集者として独立。以後,雑誌,書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。
音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。
2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。著書『さよなら未来』(岩波書店・2018年4月刊行)。