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REPORTS

触覚デザインの最前線にある「3本目の親指」

Mar.15, 2018

By YouFab 2017 Executive Committee

YouFab2017では、特別賞「Haptic Design賞」を求めて数多くのプロジェクトが競いあいました。その中で、最も審査員の評価を受け、受賞した作品が、The Third Thumb(3番目の親指)でした。イギリスに拠点を置くニュージーランド人のダニー・クロードによる、手に装着する人工装具である本プロジェクトは、人体と人工装具の関係におけるすばらしい研究となるだけでなく、使う人たちに驚きと喜びを与えます。
2月にHaptic Deisign Meetupのために来日したクロードさんと、Haptic Design Projectのオーガナイザーである南澤 孝太さんとの対談の様子をお届けします。

文: Matt Schley、写真: 加藤甫、編集: 鈴木真理子

素晴らしき三本目の親指

南澤: 「The Third Thumb」は素晴らしいプロジェクトですね。技術的な点だけではなく、デザイン的にも優れていると思います。アイデアはどこからきたんですか。

クロード: 修士号の論文で、体の延長や一般的な意味での延長について、研究していました。例えば、知覚範囲を広げる動物や、人工装具などです。研究をするうちに、「prosthesis」 (人工装具) のラテン語の語源が「~に加える」という意味であることを発見しました。この発見によって、人工装具に対する私の考えはすっかり変わりました。人工装具は、何かに代わるものではなく、能力を延長するもの、なのです。人工装具は、プロダクト、身体、体験を横断するとてもユニークなもの。だからこそ、延長という概念を探求しようと思いました。

そうそう、それと、私は親指が大好きなのです!

南澤: なんで親指がそんなに好きなんですか?

クロード: 親指は、とても人間らしいからです。親指は、最も人間的な性質の一つです。ほかのどんな哺乳類も持ってない、特有の動きができます。また義手の中では、大きな難問でもありますね。それなら私が取り組もう、と考えたのです。

南澤: デザインプロセスはどのように進めましたか?

クロード: 一体成型可能なヒンジのデザインに、インスパイアを受けました。素材に負荷を加えることで動きが生み出され、連動させるための機構が必要のないデザインです。私は、連結機構はほしくないと考えていました。私たちの手にはそんなものはありませんから。

プロトタイプはたくさん制作しました。レーザーカッターで裂け目を入れ、負荷をかけたときに潰れるようにデザインし、プロセスや素材を変えながら制作しするなかで、NinjaFlexという素材に出会いました。3Dプリンター用に使われる柔軟性があるフィラメントで、この素材のおかげで、プロトタイプを作るうえでの選択肢が増えましたし、ワイヤーのための内部チャネルを入れられるようになりました。もちろん、自分の好きなように曲げることもできました。手のパーツには、Formlabsの樹脂を使いました。とても柔らかく高解像度の樹脂で、内部チャンネルも使えるものだったからです。

手に(親指を)どう取り付けるかについても、たくさんプロトタイプを作りました。動きはどこに発生するのか、手を丹念に観察しました。親指を取り付けるには、動かない部分が必要で、これは、とても大変でした、何しろ手にはあまりにもたくさんの動きがありますから。最終的に、小指の下の部分が、ほとんど動かないことを発見しました。少しグニャっとするだけしか動かないので、親指を取り付けるには、最適な場所でした。

また、どんな手にでもフィットさせるために試行錯誤しましたね。今のモデルは、私の手に合うようにつくられていますが、なるべくどんな手にでもフィットするように工夫して作りました。これまで合わなかった手は、3つしか出会っていません (笑)。そして、ここまで開発した後に、操作部分に取り掛かりました。

南澤: The Third Thumbは、足の指についたセンサーを使ってコントロールしますね。
体の延長部分をどのように操作するかは大切な問題です。足でコントロールするアイデアをどう思いついたのですか。

クロード: 手に操作をゆだねるプロトタイプもいくつか作りましたが、あまり機能的ではなかったので、身体全体を検討することにしました。人工装具の多くは筋電センサーで操作するものが多いですが、その場合、退化した腕や脚の筋肉のマッスルメモリー (Muscle memory)に頼ることになります。いうまでもないことですが、The Third Thumbにはマッスルメモリーはないので、何を使ってコントロールしてもいいんだと考えました。

皮膚や関節など、肘や膝はどうかと考えたあと、足のアイデアを思いつきました。私たちは、足の指を上手にコントロールできますが、普段は使いません。また、手の親指と足の親指には、進化の歴史をみると繋がりがありますよね。

南澤: ユーザーが操作に慣れるまでは、どのくらいの時間がかかりますか。

クロード: The Third Thumbを動かすだけなら、すぐにできます。ただ、細やかな動きをするには、しばらくかかりますね。使えば使うほど、愛着がわいてきます。愛着という感情が生まれてくるのは、このプロジェクトのとても面白い点です。

南澤: 作品紹介のビデオでは、The Third Thumbを触った人たちはみんな、驚きながらも、楽しんでますね。

クロード: はい、ビデオでは、ユーザーの最初のリアクションを撮影しました。今のところ、ポジティブな反応を得ています。初めてつけると、大抵みんな驚きますね。ある女の子は、驚き怖がってました。その後、驚きは好奇心に変わり、みんな楽しみ始めます。

南澤: プロジェクトを進める中で、予想してなかった発見はありましたか。

クロード: The Third Thumbに対して持ち始めた愛着です。私は、2週間の間、毎日つけたり外したりしている時期があったのですが、外すと手の何かが欠けていると感じるようになりました。細やかな動きもできるので愛着が増すのでしょう。この気持ちは、私が予想していなかったことでした。

身体延長の未来

南澤: このように、みんなが自分の身体を延長し始めると、どんなことが起きると思いますか。

クロード: いい質問ですね!  まだ初期段階といえるでしょう。パーツはもっと小さくならなければなりませんね。私はいまだにサーボやその他のものが大きなブロック状であることに手を焼いています。そこが変化すると、私たち自身をデザインする機会がもっともっと増えると思います。

感覚を延長することは、ウエイファインディング (経路探索) と、もっと環境に敏感になるという点で、面白くなっていくと思います。感覚の延長は、物理的に自身の身体は変えません。これから絶対面白くなっていくでしょう。

南澤: 審査員の皆さんがThe Third Thumbを受賞作に選んだ理由は、まさしくそこです。ハプティックとは、触覚を意味します。しかし、受容器官、触覚いう意味だけで考えていたのでは、我々は変わることはできないのです。The Third Thumbは、私たちの身体がどう変われるのか、前向きなビジョンを示唆しています。私たちの身体が変われば、言動も変わり、環境に対する視点も変わるかもしれません。

クロード: ありがとうございます。

南澤: 東京は2020年のオリンピックとパラリンピックを主催します。パラリンピックイベントは、人工装具にどのような影響を与えると思いますか。

クロード: 膨大な資金と援助が注ぎ込まれるパラリンピックでは、様々な進化が起きます。例えば、2016年パラリンピックのときの、BMWがデザインした車椅子。競技のために作られた革新的なデザインは、日常的に使われる車椅子にも活かすことができ、素晴らしいですね。

私のお気に入りは、走るための義足、『チーター』です。あの革新的な技術は、人体を再現しようとするのではなく、最終的な解決策を考えることで作られました。本当に素晴らしいイノベーティブな発明だと思います。普通の人の足の能力を超えたプロダクトで、人間の体について、疑問を投げかけます。

南澤: この分野では、どんな知識や技術がまだ足りてないと思いますか?

クロード: 身体に付けるものを、もっと開発していく必要があると思います。それと自分たちの身体のためにデザインすること、そして人の身体的な違いに即したデザインをすることが大切だと思います。私たちの大きさは単にS、M、L、ではありません。一人一人とてもユニークであり、それゆえ、マス・カスタマイゼーションは、とても大きなチャレンジです。その点では、高性能の靴やスポーツ衣料分野では、そこに近づきつつあると思います。

これからの将来を考えると、いろいろな倫理的な疑問も出てきます。テクノロジーが私たちの体の能力を凌ぐことがある今、体に何かを足したり、体の部分を代替することについて、もっと議論される必要がありますね。

南澤: 我々の身体を作り変えることに対する、倫理的視点は大切ですね。私たちは受け入れることについても議論する必要があります。アジアの宗教では、複数の腕、複数の顔を持つ神々が沢山いるので、ある意味受け入れる準備ができていると考えています。西洋では、どのくらい社会的に人工装具が受け入れられていると思いますか?

クロード: 確かに、The Third Thumbに対しては、いろんなリアクションがあり、多くの人が「うわ、なんて奇妙なんだ」と言います。自分たちの手に対しては、皆、理屈では説明できないか何かを感じているのでしょう。手はコンタクト・ポイントであり、私たちと世界との交流点なのです。手を改変するのは、奇妙だと思う人も少なからずいるということですね。

しかし、パラリンピックなどが今後その状況も変えていくでしょう。一人一人の体が異なっていること、テクノロジーによって能力を拡大している人がいることを受け入れられるようになると思います。

Future Plans

南澤: 次は、どのパーツに取り掛かりたいですか。

クロード: 親指にあまりにも集中し過ぎていたもので、どうでしょうね。腕全体に挑戦するのもよさそうですね。私は義腕もデザインするので、親指と腕を合体させるのもいいですね。しかし、どうやってコントロールするかは難しい課題になりそうです。特別な方法が必要でしょうね。

南澤: 科学的な視点からは、エージェンシーとオーナーシップの2つが必要です。エージェンシーとは自分の思い通りに自由にコントロールできることであり、オーナーシップとはある種の刺激やらフィードバックを感じることです。ユーザーは、足を使ってThe Third Thumbをコントロールすることで、エージェンシーが与えられますが、オーナーシップという意味では何か考えていますか?

クロード: はい、次のレベルは、オーナーシップだと考えています。フィードバックはなかなか難しいですよね。例えば、振動や音でのフィードバックは巷に溢れています。スキン・ストレッチというものを見たことがありますが、手へのアタッチメントのようなもので、自分の皮膚のストレッチとしてフィードバックを感じられるものです。このような方向に私も考えていくかもしれません。

南澤: フィードバックは大切ですね。なぜならフィードバックによって、脳のボディマップが変えられるからです。あなたのアプローチの仕方は、身体障碍者の人、例えば手や指がない人たちも使えると思います。彼らのために何かつくる計画はありますか。

クロード: 人工装具を使用している方達からたくさん連絡をいただいており、自分がやっていることが正しいことだと感じます。彼らは、私のプロジェクトに可能性を見てくれているのでしょう。そもそもデザイナーとして、最初にこのようなプロジェクトに取り組んだ一つの理由は、人工装具についての理解を深めることで、自分の身体に何かを追加するのがどのようなものかを知ることでした。絶対に彼らのために何かを作れるようになりたいです。

南澤: 日本でもこのような動きを見かけるようになりました。3Dプリンティングを使って、自分たちの義手をデザインしているのです。

クロード: 人工装具のために3Dプリンティングを使うことは、とても面白いですね。たくさんの人が人工装具を必要としていますが、一つ一つユニークであることが重要です。3Dプリントのようなマスカスタマイゼーションが求められるのです。

南澤: 現在はどんなプロジェクトに取り組んでいますか。

クロード: 今は、オルタナティブ・リンブ・プロジェクトの中で義手を作っています。また、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのプラスティシティ研究所の神経科学者チームと一緒に、The Third Thumbの発展に取り組んでいます。

彼らの調査によると、手足を切断した患者の中には、義手を使わずに、生まれたもった腕を2倍使うことを選んでいる人たちがいるそうです。研究所の人たちは、もし手足を切断した患者の腕にThe Third Thumbをつけたら、どう助けになるのか興味を持っています。

南澤: お話をありがとうございました。これからもご活躍を期待しています。