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なにに、どう、タテをつく? 反骨精神を感じる受賞結果 YouFab Global Creative Awards 2018授賞式レポート

YouFab Global Awards 2018実行委員会

デジタルファブリケーションの進化によって生まれた作品たちが集う場、「YouFab Global Creative Awards2018(以下YouFab)」は、今年で7回目の開催となる。回数を重ねたことによって、YouFabならではの文脈が生まれていることが実感できる場となった。

デジタルとフィジカルを横断し、結合する創造性=Fab(ファブ)

デジタルファブリケーションとは、レーザーカッターやCNCマシン、3Dプリンタなどのコンピュータと接続されたデジタル工作機械によって作品を制作すること。インターネットの発展やArduinoなどの手軽なオープンソースハードウェアの普及によって個人で製品開発ができるようになった。

ものづくり革命はメイカームーブメントと呼ばれ2010年代前半から盛り上がり、さまざまなデジタル機器が揃った渋谷のものづくりカフェ「FabCafe Tokyo」ができたのもそういった背景から。現在では日常におけるデジタルとフィジカルの横断は当たり前になり、前回の記事、YouFab 2018 キックオフトークセッション『Polemica!! Fabの夢のつづき』開催レポート:http://www.youfab.info/2021/kickoff_talksession_report.html?lang=ja)でも書かれたように、Fabを再定義する上で「分散化」が重要な概念として議論されるまでになり、取り巻く環境も変化している。

議論を巻き起こすファブによってできた作品たち

個人がデジタルツールで制作する技術は、工業製品だけではなくアート作品にも活用される。テクノロジーが生活に溶け込んだ現代ならではの作品が国内外からYouFabに集った。

ファイナリスト:Olivia Guigue 《Museum for a future》

ファイナリスト:岩崎広大《かつて風景の一部だったものに、風景をプリントする》

2018年8月1日から10月31日の募集期間に32カ国から158作品が集まった。審査員は5名。審査委員長として今年から就任した、編集者の若林恵氏。アルスエレクトロニカ総合芸術監督のGerfried Stocker氏。京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab. 特任教授のJulia Cassim氏。TAKT PROJECT 代表デザイナー/クリエイティブディレクターの吉泉聡氏。株式会社ロフトワーク 代表取締役の林千晶氏。そして毎年企業とのコラボレーションとして設定される特別賞としてスポンサー企業であるライオン賞も設立。「仕事とくらしがとける・MARGE」をテーマに作品を募集した。

ライオン賞:GADARA 《Hack the Natural Objects.》

今年のYouFabの審査基準は三点。「『なにをつくったのか』の視点がユニークであること」。「『なぜつくったのか』の問いが鋭く、深く存在すること」。「『どうつくったのか』の具現力にすぐれていること」。そこから16の受賞作が選定された。

授賞式の会場は、東京・九段にある国の登録有形文化財「旧山口萬吉邸」をリノベーションした、会員制ビジネス・サロン「kudan house」。授賞式では受賞者には活動のプレゼンテーションの機会が与えられ、彫刻家の名和晃平がデザインした3Dプリントのトロフィーが授与された。

株式会社トリプルセブン・クリエイティブストラテジーズ代表取締役でありFabCafe共同設立者の福田敏也氏のオープニングトークから、国内外の受賞者たちのプレゼンテーションが始まった。今期のYouFabのテーマは「Polemica!! なにに、どう、タテをつく?」。反骨精神を感じる作品は、鑑賞者が思わず何か語りたくなる作品ばかり。

金魚による人間に対する反抗

GRAND PRIZE「Fish Hammer」Neil Mendoza (アメリカ)

水槽中を金魚が動き回り、その動きに合わせ、ミニチュア家具にハンマーが振り降ろされる。自然が人間に仕返しをする、という状況を作り、人間の生活が生態系に与える影響を問題提起・風刺した作品。この作品はAutodeskが本国のサンフランシスコで運営するテクノロジーセンター、PIER 9のサポートのもとで制作された。アルミのフレーム制作やカメラ認識システムもアーティスト自らが手がけ、カメラでが認識しやすいように彩度の高い魚を選んだという。

労働者の脳波によって編まれた織物

FIRST PRIZE「Mind in the Machine」Ani Liu(アメリカ)

工場で働く労働者の脳波を計測し、彼らの知覚・認知状態を反映して編まれたニット作品。機械製造主流の現代における「人間の手作業」を象徴すると同時に、自動化が進む経済を支える無名の人々の貢献を反映している。編み物には、編み手の思いやその土地、家族で継承される文化も編み込まれる。しかし機械化が主流となったいま地域特有の“印”が失われているという観点から、大量生産品によって失われた筆致や生成物に固有の痕跡を込めたそうだ。

デジファブと手作業によって生成された台風の質感

GENERAL AWARD「Typhoon I」Michael Koehle(アメリカ)

3Dプリンタで出力された台風の軌跡。小型の台風によって紙の波が起こり、最終的には紙片でできたレリーフが完成する。インパクトを与える二次元のイメージをピックアップして3Dマップにし、二次元に新しい座標軸を加えた。高低の情報を切り抜いて、濃淡で高低をつけている。近くで見ると高低差から台風の迫力が視覚的に伝わる。

VRを介したロボット二人羽織

STUDENT AWARD「Fusion」MHD Yamen Saraiji, Tomoya Sasaki(日本)

体に装着するタイプのアシストシステム。VRのコントローラーから遠隔で操作し、ロボットを装着した人の動きをアシストすることで人間のできることを遠隔地から共同作業を可能にする。テクノロジーと体を組み合わせ、相互協力においてテレプレゼンス技術を活用する新たな方法を模索することでテクノロジーが人間の能力をいかに進展させるかに取り組んでいる。

Fabを起点にさまざまな切り口で語られた審査員による議論

授賞式では、若林恵氏、Julia Cassim氏、吉泉聡氏、林千晶氏による鼎談も開催された。

授賞式は作品と作者が集う希少な機会。若林恵氏は「受賞者と作品を見比べて、なるほどと思った」と切り出した。Julia Cassim氏は「毎年応募作品の傾向に変化があるのが面白く、そしてFabの扱い方も洗練されてきている。特に脳波検出技術を取り入れたAni Liuの作品やMichael Koehleのレーザーカッターと人力を駆使した作品に現れていたと思います」と続けた。Michael Koehleの「Tyhoon 1」は審査員の吉泉聡さんが、Fabのアワードの評価として実物を見たいと思わせるとして高評価を与え、晴れて日本での展示が実現した。

そして、美術史になぞらえながらYouFabは社会のなかでどういった立ち位置なのかを考察する話を進める。「20年前、デビット・ホックニーというアーティストが、世の中の森羅万象を視覚的に言語で捉える作品を出しました。私自身は美術のバックグラウンドを持っていたので、そういった試みの中でホックニーの作品は一番優れていて、作品を通じて世界をアーティストの視点で捉えることの意味を理解できた。作品を起点にして、アートを評価するためには文脈の重要性が議論され始め、『美しければ良い』とされていたアートの潮流が、そこでまるっきり変わってしまったのです」

Julia氏は、自身の経験の話も引き合いに出しながらこう続けた。「以前、遠近法が生まれた時を調べるために、スタジオの壁一面に遠近法が生まれるか生まれないかくらいの時期の作品を並べたことがある。作品をみていくと、作画にレンズが使われていた。当時の画家たちはそういった工夫や発見を誰にも言わずに制作していて、技法の歴史における転換点にはそういった側面があります。こういった素材や技術を使って切磋琢磨したうえで作品が生まれるというのはYouFabでも起こっていて、その良さを感じている」

続けて林千晶はジェンダーバランスについて示唆する。「女性が準グランプリ受賞者にいたことが大きいですね。審査中に性別のことは意識していなかったけれど、蓋を開けてみて嬉しかった」と女性ならではの観点を語った。「来年はアワードのメッセージとして考えなければいけない論点ですね。おっさんばっかりに偏ってはいけない(笑)」と若林恵氏は場を和ませ、「今後は女性の審査員も増えるといいですよね」と林千晶氏は未来の指針を述べた。

YouFabならではの審査基準について、若林恵氏は「作品のクオリティをどう判断しているのかとJulia Cassim氏に問いかけた。

「鑑賞していて感じたのは、作品の中にテクノロジーを取り込みすぎている点。最初にテクノロジーがあってあとからコンセプトが乗ったり、コンセプトから始まって特定のテクノロジーに辿り着いたものがありますが、そのコンセプトとテクノロジーがシームレスに自然と一体化したものは良い作品です。理想的な作品はいろいろなトライアンドエラーを繰り返しながらも成り立つものだと思っています。理想的にミックスされた作品は、おのずとすぐにわかるんです」と答えた。テクノロジーとコンセプトは両輪が回っていないと美しくないのだ。

制作によって立場が融解するおもしろさ

さまざまな立場の人が参加できるのもこの授賞式の醍醐味と若林恵は言う。「僕が気になったのは受賞者のプレゼンテーションで、アーティスト、リサーチャーなど各々の自称する肩書が違うこと。その人たちが作品を作っている時に何者としてやっているかが曖昧なんです。アートのアワードだったら、アーティストとして関わる。デザインのアワードになるとデザイナーが手がける。YouFabはいろいろな職種が参加しているのが面白いですよね。そこについては?」

投げかけられたJulia Cassim氏はこう答えた。

「クリエイターはリサーチをしているときもあるし、アーティスティックな表現者になることにもなるし、場合によりけり。直面する課題によって、エンジニア的に対応することもある。最近はものづくりにおいて統合的に考えることが多い。考え方の垣根を取りはらって、肩書きはだんだん意味のないものだと思えます」

若林恵氏は、最後に「アワード」という仕組みそのものについて言及しながらこう締めくくった。「たとえば、映画監督を目指す人にとって新人賞を受賞することは映画監督としてのキャリアの発展につながる。それはある種の権威付け。受賞者にとってポジティブな働きを持つように、賞(アワード)は機能しないといけない。賞と人間の関係を取り戻さないといけない。今後ものを作ることとは人間にとっていったい何なのか根源を定義し直す姿勢を評価するとか…ここは次に向けて考えたいと思います。」

その後、内覧会とアフターパーティが始まり、作家、審査員、観客、スタッフといった肩書を飛び越えた交流が行われ、作品を前に作家と来場者があつい議論が交わされた。

そこでは作り手も鑑賞者も主催者もフラットなYouFabならではのコミュニティが育まれていた。この、肩書きに捕らわれずにクリエイションに対して純粋な議論ができる場は、今後もより濃密な現場になるはずだ。来年度2019のYouFabにはどんな作品が応募され、私たちにとってのFab・ものづくりの定義が更新されるのか。今から非常に楽しみだ。