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8.1-10.31
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THEME 今年のテーマ

Democratic experiment(s)

誠実にものをつくろうとすればするほど、私たちは、複数の、いや無数のステークホルダーとの関係に巻き込まれることになる。たとえば椅子をつくることを考えてみよう。その椅子の使い手が年老いたおじいさんであるなら、まずはその椅子はおじいさんにとって使い勝手がよく、かつおじいさんの人生に見合った誇り高いものでなくてはならないだろう。しかしおじいさんが娘さんの介護を受けているなら、椅子は娘さんにとって介護しやすいものでなければならないだろうし、椅子が置かれる応接間がおじいさんの親父さんが使っていた部屋なら、その家を建てるのに親父さんがどれだけ苦労したのか、死んだ者の思いも汲まなくてはなるまい。素材の側にも事情がある。その木材は誰がどのような思いで植えた木で、その木のまわりにはどのような鳥や虫、あるいは菌やウイルスがいて、伐採によって彼らはどのような影響を被るのか。輸送にはどのような手段が使われたのか。さらには椅子が使われなくなったとき、それはどのように解体され、あるいは作りなおされるのか。


つまり、ものを作る作業とは、本質的に、人間、動植物、菌類、鉱物、死者などを含む無数のステークホルダーと相談しながら答えを出す作業であり、その意味で毎回が民主主義の実験であると言える。

ところが私たちが慣れ親しんだ大量生産・大量消費の習慣は、こうした無数のステークホルダーとの関係を切断し続け、それが今日の地球規模の環境破壊や富の不均衡につながっている。ならばもう一度、小さなものづくりの現場がもつ、民主主義の可能性を起動させよう。必要なのは単なるテクノロジーの民主化ではない。つくることを通して民主主義をつくりつづけることである。

審査委員長

伊藤亜紗

東京工業大学科学技術創成研究院未来の人類研究センター長 / リベラルアーツ研究教育院教授

東京工業大学科学技術創成研究院未来の人類研究センター長、リベラルアーツ研究教育院教授。MIT客員研究員(2019)。専門は美学、現代アート。もともと生物学者を目指していたが、大学3年次より文転。2010年に東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻美学芸術学専門分野博士課程を単位取得のうえ退学。同年、博士号を取得(文学)。主な著作に『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)、『どもる体』(医学書院)、『記憶する体』(春秋社)、『手の倫理』(講談社)。WIRED Audi INNOVATION AWARD 2017、第13回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞(2020)受賞。第42回サントリー学芸賞受賞。