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Mind in the Machine

Mind in the Machine

Ani Liu

Category : GENERAL
By Ani Liu (アメリカ)

作品について

この作品は工場で働く労働者の脳波を検知し、その知覚・認知状態を反映したニットを編む。ストレスを感じている時にはステッチがタイトなものになり、リラックスしている時にはルーズなステッチになる。本プロジェクトは、機械製造が主流である現代における「人間の手作業」を象徴するものである。また、自動化に支えられた経済への、全ての無名の人々の貢献を反映している。

制作の動機

2017年の夏に深圳市と東莞市の工場を見学する機会に恵まれた。製造スケール、そして人間の数を遥かに超える機械の数に圧倒された。ある意味機械がヒエラルキーのトップに立っており、人間は必要とされていないように思えた。そういった経験から私は製造そのもの、そしてそれが人間の労働にどういった影響を与えるかに焦点を当てた作品作りをしようと思い立った。特に興味を引かれたのは、労働者の感情と製品との関係性だ。編むという行為は古くから伝わる技術であり、文化や伝統、感情といったものと切り離せない関係にある。実は、私が生まれる前に祖母が編んでくれた服を何着か持っているのだが、祖母が愛情を込めて一縫い、また一縫いと編んでくれたのが伝わってきて宝物のように感じている。ぼんやりしていたのかところどころステッチを失敗をしたり、途中で不安になったのかバランスを欠いた箇所がいくつか見られ、他の箇所よりもタイトに編んでしまっているところもあるにはあるが、そういった「不完全さ」も気に入っている。それら人間の感情が表出する瞬間をCNC編み機で捉えられるかどうかに大変興味が湧いた。

制作方法

「The MUSE」を使って、ある労働者の脳波データを記録した。そのデータをスペクトログラムで表し、脳波を反映した編み方のできるCNC編み機をプログラミングするために使用した。ストレスを感じた際には編み方がタイトになり、リラックスした際にはよりルーズな編み方になる。制作過程では、編み機のプログラミング言語を学んだのはもちろんのこと、トライ&エラーを何度も何度も繰り替えした。脳波スペクトログムにおいては、時間経過による脳活動の変化を上下で表し、活動頻度を左右、Θからγで表す。赤は高活性状態、緑は中間、青は低活性状態を示す。左方向へのΔとΘ波は、睡眠、夢、瞑想状態に関係する。7-15HZの範囲のα波はリラックス状態に関するもので、13-30Hzのβ波は注目や集中といった脳の活動に関わる。30Hz以上のγ波は、超警戒態勢を示す。

仕様

素材:ナイロン、コットン、工場労働者の脳波
Size:22cm×33cm

 

JUDGES, COMMENTS

  • 林千晶
    株式会社ロフトワーク 代表取締役

    機械と人の関係が、様々な場で問われている。機械は人をサポートしてくれるはずだった。それが気づくと、人が機械の支配下にある。中国のニット工場でそんな場面に直面し、労働者と出来上がったニットの関係をつなぎ直そうとする発想がユニークだ。働く人がリラックスしているときは緩く穏やかに、ストレスを感じているとき網目が細かく突っ張って編み込まれるプログラム。そうして仕上がったニットは、普段表に出ることのない大量生産を支えている名もなき人たちの声を拾っているようだ。