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コンヴィヴィアリティ(自立共生)の視点で、私たちは社会に何をつくるか ――YouFab2019授賞式レポート

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FabCafe Global

思想家イヴァン・イリイチが提唱した概念「コンヴィヴィアリティ(自立共生)」を引用し、「コンヴィヴィアリティ – 古いOSと新しいOSのはざまから⽣まれ出てくるもの」をテーマとした、YouFab Global Creative Awards 2019(以下、YouFab2019)。

過去最高の43カ国285作品の応募のなかから、GRAND PRIZE(グランプリ)1作品、FIRST PRIZE(準グランプリ)1作品、SPECIAL PRIZE(特別賞)3作品、STUDENT PRIZE(学生部門)1作品、GENERAL PRIZE(一般部門)1作品の合計7作品が受賞、13作品が入選した。
今年度の審査で軸となったのは、レオンハルト・バルトロメウス(以下、バルト)氏が審査会で俎上に乗せた「プレイスメイキング」という言葉。物理空間的な意味合いのみならず、人・もの・ことの関係性を生み出す「場づくり」にあるFAB的な要素に焦点が当てられた。

アワードの根幹をなすFABの解釈に大きな転換が訪れたYouFab2019。審査委員長の若林恵氏による総評や、まるでラジオのように審査員と受賞者で繰り広げられた親密なトークセッションなど、授賞式の様子をリポートする。

※2019年2月29日に行われたYouFab2019の授賞式は、新型コロナウィルス(COVID-19)の影響により会場を変更、一般参加は行わず関係者のみとし、適切な感染防止対策を講じ実施しました。

テキスト=秋吉成紀 編集=原口さとみ 写真=Aya Suzuki

つくるのはモノだけじゃない。今改めて考える、“Fab”が示すもの

授賞式冒頭、YouFab Global Creative Awardsチェアマンの福田敏也氏はこれまでのYouFabを振り返りながら、YouFabの独自性を語った。

福田 「デジタルファブリケーションでできることとは何か? という視点から始まったこのアワードを続けるうち、もともと分離していたリアルな世界とデジタルな世界が近接して、同じレイヤーに重なり始めていることがわかってきました。デジタルファブリケーションは常にデジタルとリアルの間をつなぐ存在であり、その境目にある領域のこと。その境目自体とそこで生まれるクリエティブは常に変化し続けています。

アワードとしての評価基準や重視される価値は、変化し続けるため複雑ではあるけれども、時代の変化に即した世界有数の賞だと感じています。街角にあるカフェが主催するという、特定の産業や企業などを代表しない団体が運営するアワードならではの、自由さと柔軟さをもち続けたいですね」。

審査委員長の若林氏は、審査会での議論を中心に今年度のアワードを振り返った。

若林 「テクノロジーは今や珍しいものでもなく、歯ブラシくらい身近な環境の一部となっていて、当初価値とされていたテクノロジーの新規性に対しても、新しい視点が必要になってきたと感じています。進歩したデジタルテクノロジーが人や社会に対して抑圧的に働いているように感じられる昨今、それに対していかなる問題意識を持ちえるのかを考えたく、今年度は『コンヴィヴィアリティ』というこれまで以上に大きなテーマを設定しました。

実際の応募作品を見ると、単にテクノロジーを使った成果物だけでなく、自分たちがいま生きている状況に対して批判的な視点を持った作品が多く、クリエイターの実践と投げかけたテーマがうまく繋がっていたように思えます。テーマに合わせて、審査員もアジア文化圏のキュレーターであるバルト氏や文化人類学者の松村圭一郎氏と、テクノロジー領域外の方を招きました。彼らはこれまでのテック論の中で狭まっていたFabに対する認識を文化の領域にまで広げてくれました。

Fabというと、つい「ものづくり」を想起しがちだけれど、つくるのは「モノ」に限らない。場や制度、人と人の関係性など広義に考えるべきで、バルト氏が言った『プレイスメイキング』という言葉には、動的で、プロセスに価値があり、可変であるという本来のFabらしさに気づかされました。今後のYouFabというアワードのあり方に影響を与える視座を得た、これまで以上にスリリングな審査会でした。」

続けてバルト氏。

バルト 「今回僭越ながら審査員を務めさせていただいただきました。アートからソーシャルプロジェクトまで広範な領域にまたがる応募作品の中から受賞作品を選出するのには苦労しましたが、審査会での議論を通してこれからのYouFabのグッド・リファレンスになる作品を選ぼうという結論になりました。今回、今後のアワードの方向性を形づくる作品に賞を与えることができたと思っています。これは多くの応募作品、本日お集まりいただいた受賞者のみなさんのおかげです。参加していただきありがとうございました。」

審査会レポート
“The whereabouts of social projects in the 2020s as seen from” Placemaking ” –YouFab 2019 Review Report”

動画

アーティストは社会に新たな関係性を表出させる

審査員から受賞者へのトロフィー、賞状の授与後、受賞者と若林氏、バルト氏を交えた座談会が行われた。

■GENERAL PRIZE受賞『Jungle of Nusa (Rimba Nusa)』by Suzy Salaiman

1組目は、GENERAL PRIZEを受賞したインスタレーション『Jungle of Nusa (Rimba Nusa)』を制作したマレーシアのアーティスト、スージー・スレイマン氏。

作家の拠点であるマレーシアのショッピングモールに設置されたこの作品は、人々にインタラクティブな参加を促す大人から子供まで楽しめる作品だ。参加する人々が自身の声を使って作品に関わることで、アナログな会話の楽しみを再発見することを目的としている。(作品の詳細はこちら

スレイマン氏は、ショッピングモールに作品を設置した理由をこう語る。

スレイマン 「私は、1人の母として家族とのコミュニケーションをなによりも大切にしています。最近は、家族で同じ場にいながらスマホをいじったりしてそれぞれが別のことをしている様子を見かけることが多く、寂しく思っていました。なので、実際にその場に身を置いて行う人間同士のコミュニケーションが面白ければ、スマホをそれぞれがいじるようなことが起きないのではないかと考え、家族連れが多く訪れるモール内に設置しました」。

バルト氏は、今回の応募の中で音をテーマにした作品が多く集まっていたことに触れながら、空間に情緒的な側面を取り入れる効果を持つ音は重要なファクターになっていると、「プレイスメイキング」の観点からスレイマン氏の作品を高く評価した。

※スレイマン氏の作品は、渋谷QWSで行われた「メディアアンビショントウキョウ」内にてニューバージョンとして展示された。

 

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GENERAL PRIZE Jungle of Nusa Suzy Sulaymaniyah Photo by Aya Suzuki It is an interactive sound installation that requires collective participation. Also, there’s the element of self-discovery because there’s no instructions on how to “use” it. I wanted people to “talk” to each other in an analogue way, instead of only “talking” on their handphones. I wanted the sound of people’s voices to connect other people. By speaking into the installation, a person will discover that their voice will travel to other parts of the artwork. There is also a component, where by using a guitar pedal, a person’s voice can be distorted. This is a way for me to give ownership to the people who will “take care” of this work. Comment by Leonhard Bartolomeus #intaractiveart #soundart #placemaking #design #playground #museum #shibuyaqws

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展覧会の様子はこちら

■GRAND PRIZE受賞『Penta KLabs』by Collective Hysteria

続いて、GRAND PRIZEを受賞したインドネシア・スマランで定期的に開催するアートビエンナーレ「Penta KLabs」を運営するユニット「Collective Hysteria」から、作品展示と授賞式のために来日したサラディン・ムー(Salahadin Mbuh)氏とハマム・ジディ・アフマッド(Humam Zidni Ahmad)氏が登壇した。

「Penta KLabs」は、アート活動をする上でのインフラが整備されていないインドネシア・スマラン地区に拠点を置き、アーティストが作品制作を通じて現地の生活上の問題解決に10数年継続して取り組むプロジェクト。まさしくバルト氏が言う「プレイスメイキング」を体現するプロジェクトと言えるだろう。(作品の詳細はこちら

また、今回彼らとは、彼らがコミュニティワークショップの手法のひとつとして取り入れているZine(小冊子)制作を行うワークショップイベントを開催した。2020年というオリンピック年のタイミングに、20年後の渋谷を思索するワークショップ「Future Zine Workshop – 20年後の渋谷を思索する」(instagramリンク)では、彼らが最も得意とする「対話による場づくりの力」を参加者とともに体験すした。

バルト氏は、インドネシアの中でも特に田舎の地域であるスマランで長年活動を継続していることに触れ、政府など公的機関からの助成を受けていないことにも言及。地域の実態に則さない公的機関主導のアート振興プロジェクトでは、施策と地域コミュニティとの関係が希薄なものになってしまうと指摘し、外部からの支援なしでコミュニティに寄り添いながら活動していることに感銘を受けていると語った。

若林氏がこれまでの活動を通した成果と今後の活動予定を聞くと、「現地の大学と連携し、より長期的なプロジェクトに成熟していく。一方で、引き続き政治への影響力が課題。地域への直接的な影響力という観点で政治の力は必要だけれど、かといって公的組織に依拠しすぎることなく、Collective Hysteriaが軸となって交渉していきたいですね。これからは活動地域を広げていきながら、インドネシアの地方分権化など、地域と共に活動の影響力を高めていきたいです」と語り、会を締めくくった。

本来、動的かつ可変で、プロセスやアプローチに価値が置かれる「Fab」。今回提示されたFabの新しい解釈は、8年目を経て今後のYouFabの可能性を大きく広げるものとなった。

YouFab2019の審査発表の頃から猛威を奮い始めた新型コロナウィルスの影響で起きている、グローバルな規模の人々やコミュニティの分断により、、文化が生まれる場が今どんどん狭まってきている。一方でクリエイターと呼ばれる人々はは自らの作品をオンラインで公開し、スキルをシェアしたり、遠隔でコミュニティを継続し、人と人、人と社会の分断を食い止めている。多くの人が予想もしていなかったこの状況を経て、次のYouFabではどんな視点が提示されるのだろう。「YouFab2020」で見える景色が、より豊かなものであることを願う。

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オープニングイベント

 「コンヴィヴィアリティ―― 古いOSと新しいOSのはざまから生まれ出てくるものとは?」
登壇:若林恵氏、レオンハルト・バルトロメウス氏、ラップユニットMGF

YouFab × Panasonic – Next STEAM賞トークイベント

「テクノロジーと共にデザインする、学び/遊びのこれから」
登壇:近森基氏(Plaplax代表)、アズビー・ブラウン氏(Safecast)、鈴木順平氏(unworkshop)、元木一喜氏(unworkshop)

審査会

「『プレイスメイキング』から見えてきた、2020年代のソーシャルプロジェクトの行方」
審査員:若林恵氏、松村圭一郎氏(岡山大学文学部准教授))、レオンハルト・バルトロメウス氏、林千晶(ロフトワーク代表)

YouFab2019 総評(審査委員長 若林恵氏)
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