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8.1-10.31
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REPORTS

Democratic experiment(s) talk vol.01 event report

YouFab Global Creative Awards Committee

2012年に創立され、今年10周年を迎えるYouFabは現在YouFab2021に向け作品を絶賛募集中。今年のテーマは、”Democratic experiment(s)”です。

審査員長である伊藤亜紗と、オランダを拠点に世界で活動するアーティストネットワーク・カスコランドの共同代表であるフィオナ・デ・ベルとロウル・ショーンメーカーによるオンラインイベントを8月30日に開催。今年のテーマを深掘りしてもらいました。

YouFabとは何か?

YouFabが設立されたのは2012年。当時3Dプリンターやレーザーカッターなどの技術はまだ新しく、世界を救うとさえ思われていたこれらデジタルファブリケーションのツールを祝福するべく始まったのがきっかけでした。

YouFab、そして世界中に広がった11拠点のFabCafeは、デジタルファブリケーションの恩恵を人類が享受し続ける中で、各地域のアーティストたちが交流をし、刺激し合える空間となっています。

苦難から生まれるDemocratic experiment(s)

今年のテーマを構成する柱は2つ。「民主的な態度を保ちながら、どのようにものづくりを行っていくのか」・「つくることを通して民主主義のあり方をつくる」です。

民主主義の実験の例として伊藤氏が紹介したのは、いとうせいこう著の「福島モノローグ」から引用したものです。「2011年東日本大震災の際には、様々な人が、いわゆる国家が公共サービスを提供できない危機的な状況に陥る中で、ボトムアップ的な創造性を発揮していたとも言える」と伊藤氏は紹介します。

一つ目は、避難所で一からラジオ局を立ち上げた女性の話です。彼女たちが当時避難してたのは山の中で、電波が届きにくい場所にありましたが、全国から届いた物資を利用し、避難所に滞在していた人たちをはげますためにラジオ局を開設したのです。

二つ目は、福島第一原子力発電所がある大熊町で、捨てられた牛のための牧場を始めた少女の話もあります。原発事故で住民が避難したため多くの家畜牛が取り残され、水も食事も与えられない中で死んでゆく姿を見た彼女は、そこにのこされた牛たちがセシウムに汚染された草を代謝できるようになっていることに気がつき、牧場をはじめました。

困難に直面したとき、互いに助け合うために人々は様々な案を思いつくことができるのです。「この一年半、世界がコロナ禍に直面する中で、似たようなことがあったのではないかと思います」と伊藤氏は話します。「その中に、とても創造的でアナーキズム的な民主主義の可能性が見えるんじゃないかと思うんです。」

”福島モノローグ”を引用した Experiment(s) of democracy の説明

パンデミック、YouFab、そしてものづくりを通した民主主義

新型コロナウィルスは他者との交流を劇的に変えました。

パオロ・ジョルダーノ著「コロナ時代の僕ら」で筆者は、このパンデミックを遠し、私たちは「つながっている」ことを思い出したと指摘しています。大量生産と大量消費を「普通」とする社会で生きている私たちは、私たちの生活が本当は様々なものの犠牲の上に成り立っていることを忘れがちです。

しかし実際は、私たち人間は他の様々な存在–生死を問わず–と同様にコミュニティーの一員でしかなく、これらとは切っても切れない繋がりを持っているということを、パンデミックが思い出させてくれました。「人間中心主義ではない、種や空間、時に時間さえ超越する人間以外の様々な存在も意識しながら、様々なステイクホルダーたちと対話をし、関わる中でものがつくられていく。そんな中に新しい民主主義の可能性が見えるのではないかと思います。それをYouFab 2021という装置を通じて表現して欲しいのです。」と伊藤氏は語ります。

"コロナ時代の僕ら"を引用した Democratic experiment(s) の説明

成果物ではなく、過程をデザインする

オランダを拠点に活動する、国際的なアーティストネットワークであるカスコランドが目指すのは、成果物ではなく、過程をデザインすることだと言います。

彼らが行った実験の一例として、使われなくなった商店街の一部だった建物を利用したものがあります。その周辺には店を始めたくても経済的な理由等で店を持つことのできない住民がいることを知ったカスコランドは、「1日店主」ができるような仕組みを作りました。そこでは、毎日違う活動が行われるようになりました。店を持った美容師やマッサージ師はクライアントと密接する関わることで、社会的活動も生まれました。クライアントたちと関わる中で彼らの直面する問題や課題を含む物語を聞くようになったのです。これはカスコランドが「インフォーマル・コミュニティー・ケア」と呼ぶものです。

廃棄パンがネズミを引き寄せているのが以前から問題になっていたこのコミュニティでは、「パン消化機」を開発、利用することによって、フードロスからガスを作成し、さらにこのガスでパンを焼くことに成功しました。

カスコランドいわく、プロジェクトを設置する際に重要なのは、活動が実際に行われている場所をよく観察することだということです。この活動というのは連続したものであり、数多くステークホルダーたちがいるということを意識することも大事だと話します。「私たちがよく言うのは、成果物ではなく、過程をデザインしようということなんです」とロウルは言います。

「インフォーマル・コミュニティー・ケア」

トークセッション

プレゼンテーション終了後は、FabCafe Taipei 共同設立者であるティム・ウォングをファシリテーターとして迎え、伊藤氏とカスコランドによるパネルディスカッションが行われました。

フィオナ:伊藤氏のプレゼンを聞きながら考えていたのが、災害時には実に多くのものが可視化されるということです。公のシステムというものが欠落したとき、ボトムアップ的なアプローチや、非公式のシステムが生まれそして可視化され、それらの力や美しさもまた私たちの目に映るのだと思います。

パンデミックにより人とのつながりがなくなりそうになった時、その価値がよりはっきりとしたものになりました。

ロウル:自然災害だけではなく、この20年間で私たちは経済的な大打撃というのも経験しました。そのときは、政府が撤退していく中で、クリエーターや住民たちがボトムアップで公共空間を作っていったのです。

今なお続いているこのパンデミックの中でも、私たちの住む町中にある公共の緑の場や公のスペースというものが、人々が癒しを求めようとするときにいかに大事なものであるかというのを教えてくれました。

ティム:なるほど。想像力、創造性、そしてアートというものが、私たちの社会の様々なステークホルダーたちと関わる際の役割についてどう思いますか?

伊藤:難しいですね。アートの重要な役割の一つに、私たちが不安に直面したとき、力を与えてくれるというものがあると思います。暗くて触れることのできない不安を、ものづくりというプロセスを通して具体的な形に変えることができる。そうすることでその先も考えていくことができるようになると思います。

ロウル:アーティストやクリエイター、デザイナーは、異なる価値観や見落としていたインスピレーションを持ち寄ること、取り戻すことによって、様々なグループやコミュニティをつなげることができます。そしてこの異なる価値観こそが、新しいアイディアやプロセスを拡げます。

ティム:ありがとうございます。では伊藤さんに質問です。こちらの記事で言及されていた、「つくることを通して民主主義のあり方をつくる」ということについて、解釈をお話ください。

伊藤:民主主義の精神をもって何かをつくるにあたり、私たちは新しい言語をつくる必要があります。私たちが普段使っている共通言語というのはマジョリティのために作られたものであり、マイノリティーにふさわしいものではないからです。

たとえば、人は「お目にかかれて嬉しいです」と言いますが、盲目の人というのは「お目にかかる」ことはできないわけですよね。自分が日々使っている言語をまずは意識することが出発点になるのではないかと思います。

ティム:ありがとうございます。それでは最後に、今年のYouFabの応募者たちに期待することをどうぞ。

伊藤:今年のテーマは漠然としていて、グローバルでもあるのですが、ローカルなソリューションに出会うことができたらなと思っています。皆さんのコミュニティの中でのステークホルダーが誰なのか、そして最善の選択肢が何なのか見てみたいです。

ロウル:何も期待しないということが、私の期待するべきことですかね。そうすれば、期待していなかったものとの遭遇から、私たちは驚きを得ることができますから。

 

YouFab2021では、10月31日まで応募を受け付けています。受賞者は、2020年4月にオープンしたパナソニックセンター内に作品が展示されます。

この日のパネルディスカッションでは、「自分以外の「あなた」の意見を傾聴するということ」そして「新しい言語の必要性」などが重要な要素として挙げられました。応募者の中にはこれらの点に取り組む人もいることでしょう。

作品の形態は、家具、食品、建築、サービスなど多岐にわたり、制限はありません。あなたの地域から導き出される最高のソリューションをお待ちしております。