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テクノロジーはみんなのもの――オルタナティブなテクノロジーの解釈を求めるクリエイティブアワード「YouFab」の現在地

FabCafe Global

日本生まれのクリエイティブ・コンペティション「YouFab Global Creative Awards 2020(以下、YouFab)」は、2020年8月1日に「Contactless by Default(訳:前提としての非接触)」をテーマにした作品やプロジェクトの募集をスタートした。

YouFabは2012年にスタートしたクリエイティブアワードで、多様で国際的なイノベーターのコミュニティを通じてデザインの境界線を押し拡げてきた。過去の応募作品数は全1,000件以上、応募国数は全43ヶ国にのぼる。

2018年からYouFabのディレクターを務める石塚千晃は、多摩美術大学、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)でメディアアートを専攻し、植物や音響技術を絡めたバイオアート作品を制作してきたアーティストの一面ももつ。3年目の運営を迎えるYouFab2020スタートにあたり、YouFabというコミュニティがもつ機能や魅力を、石塚に話を聞いた。

Original Text by Kassy Apple
Interviewed by Christine Yeh
Photo by Daisuke Murakami(Ishizuka Portrait)
Japanese Edit by Satomi Haraguchi

瑞々しくヒリヒリするアートで、人と人とのつながりをつくる

「私は、YouFabのディレクターを引き継いでから、単なるアートアワードを超えた価値をYouFabに生み出すことをミッションとして取り組んでいます。YouFabは、他では出会うことのなかったような、自己表現にとどまらないクリエイションに励む、世界各地のイノベーターたちが集まるプラットフォームになりうると捉えています」と石塚は言う。

西洋中心の権威的なコンペティションは、見た目の洗練度やデザインの完成度の高い作品を表彰しがちだ。一方YouFabは、アジアのクリエイティブ領域における近年の目覚ましい萌芽から生まれたもので、デザインアワードでは珍しい、粗削りでも勢いがあったり切実だったりといった、生々しさと本物志向な作品を奨励している。

YouFab2019でグランプリを受賞したのは、具体的な“モノ”の作品ではなく、インドネシアのHysteriaによる『Penta KLabs』という“様々なステークホルダーを参画させた共同体のデザイン”だった。これは、YouFab歴代で初めてのことだ。

授賞式で、審査員レオンハルト・バルトロメウス氏からトロフィーを受け取るHysteriaのメンバー。Hysteriaは、『Penta KLabs』としてアートを通じた参加型のまちづくりの活動を行っている。

Hysteriaは2020年春の授賞式に参加した際、受賞者、ファイナリスト、審査員、YouFabチーム、アーティストなどその場に集った関係者らと意見を交わすなかで、コラボレーションの企画や、新しいアイデアを早速生んでいた。

授賞式のみならず、受賞作とファイナリスト作品による当初オープンしたてだった渋谷スクランブルスクエアでの展示会でも、志に共鳴したメンターや仲間とネットワークをつくり、アイデアを交換する様子もあった。

「こうした異なる領域のクリエイター、活動家が集い化学反応を生む場や機会をつくることが、YouFabの最も大事な役割です」と石塚は語る。

テクノロジーとアートを組み合わせ、目的をもって創造する

「YouFabのコミュニティをつなぐものは、作品の形態や業界、国籍に関係なく、メンバー全員が目的をもってクリエイションをしているということ。それに共鳴したアーティストたちが集うんです」。

テクノロジーが進化し続けるいま、アートのためにアートをつくるのではなく、YouFabは、クリエイターが批判的に思考し、身近な世界での出来事に言及することを奨励するものでありたいと石塚は考えているのだ。

「今の時代、“クリエイティブな作品”とは、単に話題になるということ以上に、作り手のなかで作品が自分事化されており、人々を鼓舞したり、暮らしをよりよいものにしたり、何らかの今は存在していない価値を提示したり、すでにある価値を輝かせたりすることが求められています。YouFabはそんな作品を期待しています。アーティストやクリエイターとして優れ、成長するための唯一の方法だと思います」。

授賞式・展示で来日した際、Hysteriaが開催した「Future Zine Workshop」の様子。カメラを片手に参加者と渋谷の街に繰り出し、20年先を想像しながらフィールドリサーチした後、ZINEを制作した。

同じ志をもつクリエイターのトライブが発生する環境づくり

YouFabの個性は、アートプログラムとしての志や審査基準以外にも宿る。

YouFab2020の審査員長には、『WIRED』日本版元編集長の若林恵氏が2018、2019に続いて就任した。若林氏は現在、blkswn(ブラックスワン)というコンテンツレーベルで、書籍、Podcast、動画コンテンツ、オリジナル記事など様々なプロジェクトを展開している。2019年冬に上梓された書籍『次世代ガバメント』では、公共――つまり社会のアップデートをテーマにしている。文中から感じられる社会への眼差しや、身の周りの課題を捉えるリアリティは、YouFabが期待する作品の制作プロセスと通じるものを感じる。

 

また、キービジュアルのデザインにも、有力なアーティストが参加している。キービジュアルは、毎年新進気鋭のデジタル表現を主軸にするアーティストと制作してきた。応募者のインスピレーションとなり、YouFab2018のキービジュアル(*)はOne Show Award、D&AD Awardなど数々の賞を受賞した。

(*)ART DIRECTION / Kazushige Takebayashi[SHA Inc.]
DESIGN / Natsuki Isa[SHA Inc.]
PROGRAMMING / Shoya Dozono[Qosmo, Inc.]

YouFab2019では、コードで誰でもビジュアルを作成できるオープンソースのC++ツール「openFrameworks」のクリエイターの一人であるアメリカ在住のデザイナー、プログラマー、教育者、アーティストのザック・リーバーマン氏が、「Convivality」をテーマにした見事なビジュアルをデザインした。

そして今回YouFab2020は、「Contactless(非接触)」をテーマに、東京を拠点に活動する若手の映像作家、アーティスト、開発者である橋本麦(Baku Hashimoto)氏にデザインを依頼。90年代生まれの橋本氏の、ユニークなデジタル表現の捉え方が存分に発揮されることで、YouFabの今までのイメージを超えていくような作品が生まれるのではないかと考えていたという。

キービジュアルに、定評のあるアーティストと新進気鋭のアーティストの双方を迎えていることに加えて、YouFabのアーティストコミュニティには彫刻家の名和晃平氏も名を連ねる。

名和氏は、Pixel(画素)とCell(細胞・器)が融合した「PixCell」の概念を基軸に、多彩な素材が持つ特性と最先端の技術をかけ合わせた彫刻作品や空間制作を行う。彫刻に3Dスキャンと印刷を使用することで知られる名和氏は、「デジタルファブリケーション分野の優れた挑戦 」をコンセプトに、YouFabのグランプリと準グランプリに贈られるトロフィーをデザインした。

YouFabグランプリ、準グランプリに贈られるトロフィー作品、『THRONE』(designed by Kohei Nawa)

YouFabのコミュニティのカテゴリーは、デジタルファブリケーションだけではない。
ニューメディアアート、建築、教育、バイオテクノロジー、コミュニティデザイン、サービスデザインなど、様々な分野に特化したクリエイターで構成されるコミュニティへと成長してきた。事実、石塚も好きだというYouFab受賞作品の一つであるニール・メンドーサ氏の『Fish Hammer』は、イノベーティブであることやテクノロジカルであることよりも、ポップでアナログでありながら、現代のテクノロジー至上主義社会に対するアイロニカルな部分を大切にしている。

YouFab2019の審査員にインドネシアのアートコレクティヴ「ruangrupa(ルアンルパ)」のレオンハルト・バルトロメウス氏を迎えたことで、YouFabは“欧米のトレンド”を追うだけではない、東南アジアをはじめとする世界各地の要素を取り込んだ多様なカルチャーに目を向け、紹介するアワードへと成長した。

これまでのYouFab受賞者は、YouFabの受賞をきっかけに権威ある賞を受賞し、メディアでも高い評価を広く得てきた。
例えば、人間の細胞で手を“培養”する作品『Regenerative Reliquary』で2017年にグランプリを受賞したエイミー・カール氏は「BBC 100 Women 2019」に選出、バイオマテリアルを前提としたファッションデザインの新しい表現をした『Biological Tailor-Made』で2017年にファイナリストとなった川崎和也氏は「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2019」に選出、そして過去の審査員には、アルスエレクトロニカのアーティスティック・ディレクターであるゲルフリート・ストッカー氏などがいる。

そして前回YouFab2019では、ベネチアビエンナーレにも過去に出展し、日本の影響力のあるアーティストの高嶺格氏が作品を応募しファイナリストとなった。これまでルーキーが集うコミュニティだったYouFabが、高嶺氏のようなベテランのアーティストがYouFabに参加しているのを見るのはとても変化を感じるし心が躍る、と石塚は話す。

YouFab2017のグランプリを受賞したバイオアーティストのエイミー・カール氏は、「BBC 100 Women 2019」に選出された

クリエイターとビジネスをつなぎ、社会に実装する

YouFabは、クリエイターやクリエイターが提供する作品と社会とをつなぐ架け橋になることも重要だ、と石塚は話す。そのため、毎年社会にインパクトのある企業と提携し、企業とアーティストが相互にメリットのある特別賞の枠を設けている。

ビジネスパートナーとYouFabは、共にその年の特別賞のテーマを決め、その分野に関連するイノベーティブな洞察力をもち、さらにソリューションとして作品を提示し、その作品を形成した視点やビジョンを実現するために取り組めるタレント(才能)を発掘しようとしている。

2020年、YouFabはJR東日本と提携し、移動の可能性(New Mobility)をテーマとする作品のデザインを募集する特別賞「NewHere Prize」を実施する。なおこれまでのYouFabのパートナーには、パナソニックやライオン、ヤマハなどが名を連ねる。

>>企業とクリエイティブコミュニティのコラボレーションについての記事はこちら

YouFabは2018年にライオン株式会社とパートナーシップを組み、新製品の開発ではなく、未来のビジネスを研究するR&Dユニット「Innovation Lab」を設立した

いずれは、クリエイターが社会や世界と向き合い創造性を育む場を。

今後、石塚は「YouFab Academy」なる「創作者や創作したい人々のフリースクール」を開設し、ナレッジを共有するための場をつくりたいと考えている。

教育を行政サービスとして捉えるのではなく、クリエイターとして日々考えていること、情報の入手方法、サヴァイヴする術などを共有する、生徒と先生の関係が常に入れ替わるような場だ。

石塚は、現在の日本のアートやクリエイティブシーンには元気がないと感じているという。

「現在の日本のクリエイティブシーンは、あまり国外での評価に目が向いていないと思います。インターネットで海の向こうのことにアクセスはできるけれど、自分たちがアクセスされる側としての意識が薄く、研究の世界でもアートコミュニティでも、海外へのプレゼンテーションを視野に入れているクリエイターは多いとは言えない」。

YouFab事務局近く、渋谷の生活感ある閑静なエリアと石塚

バーチャルであろうとリアルだろうと、石塚の描くフリースクールがあれば、そんな課題も転換できるだろう。

「私がつくりたいのは、クリエイターが社会や世界の動向と向き合いながら創造性を育む場。なんらかのハードルに直面したときにクリエイター同士で助け合い、知性を交換するプラットフォームなんだと思います」。

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YouFab 2020 概要

テーマ:「Contactless by default」(前提としての非接触)
アートとデザインを通じて時代の流れを掴むというミッションに沿って、2020年のアワードテーマは「コンタクトレス」です。COVID-19のパンデミックが検疫やロックダウン、社会的な距離感の取り方など、社会システムや個人のライフスタイルの急激な変化を余儀なくされている中、YouFabでは、日常生活に人間性を取り戻す体験に光を当てるデザインや、非接触であることがデフォルトで強くなる実体験を提示する作品を募集しています。

応募資格:
YouFab賞は、年齢・国籍を問わず、世界中のすべての個人・法人を対象としています。企画段階を過ぎた作品・製品・サービスはすべて対象となり、物理的・実践的に実装されている作品、現在稼働中の作品、すでに出版・公開されている作品などが対象となります。2019年からは、デジタル制作ツールを使わずに制作された作品も歓迎します。

応募期間      :2020年8月1日(土)〜10月31日(土)日本時間12:00pm
グランプリ     :トロフィー(『THRONE』Kohei Nawa)、$2,000 USD
準グランプリ    :トロフィー(『THRONE』by Kohei Nawa)、$1,000USD
学生部門賞     :賞状、$500USD
特別賞「NewHere賞」:賞状、$1,000USD
主催        :FabCafe

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