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Cartes des Silences - Paris habituelle / confinée

Clémence Althabegoïty

Cartes des Silences – Paris habituelle / confinée

Concept

車の騒音、飛行機の轟き、地下のカサカサという音、電車の大きな音、五月蠅いサイレン…。 パリは他の都市と同じように静寂がほとんどない街だ。

 

「Cartes des Silences – Paris habituelle / confinée(静寂の地図 – いつものパリ/封鎖状態)」は、パリ市街で静かな場所を見つけるため、パリ市街の環境音を可視化したものである。 一連の動く地図は、パリ市街および郊外の様々な場所の音のレベルを表示しており、2020年のパンデミックによる最初の都市封鎖時の前後の音のレベルを比較している。

 

パリの最初の都市封鎖は3月17日から5月11日まで行われた。 データが示しているのは、昼と夜両方のデシベルレベルにおける「通常の」年間の平均(2019年に測定)と「封鎖状態の」平均である。このデータは、音レベルのモデリングと地図化を行う科学機関であるBruitParifが収集を行った。 8つの異なるレベル(>45 デシベル, 45-50, 50-55, 55-60, 60-65, 65-70, 70-75, >75)によって構成されている。 この作品が目指すのは、パリにおける騒音汚染に最初の都市封鎖がそれにどのような影響を与えたかを明らかにすることである。

パリ都市部の環境の中で、静かな区域がいかに珍しいかがこれらの地図によって暴かれている。 動画は都市部の環境において音がどのように空間に満ちるかに焦点を置いており、都市の状況において静かな空間を見つける上での思索的な一つの見解である。

騒音による汚染は人間やそれ以外にとって常に重大な環境問題となってきた。
WHOによれば「あらゆる交通機関を考慮に入れると、EU市民のおよそ半分が、住民に音響面で心地良さを保障しない地域に住んでいる」。

パリは世界で9番目に騒音が大きい都市である。 その公共空間の多くが、騒音による汚染の面でのWHOのガイドラインをはるかに超えている(日中の道路での通行で54デシベル、日中の空での通行で45デシベル、日中の電車での通行で53デシベル)。騒音での汚染は健康に多大な影響を与え、精神面ではストレス、披露、悲しみ、不安、ヒステリーなどを人間とそれ以外の両方に引き起こしうる。肉体的な面では、呼吸の乱れ、鼓動の早まり、高血圧、頭痛を起こす可能性があり、極端に大きい一定の音の場合、胃炎、大腸炎や心臓発作さえ起きることがある。

都市における静寂は建物が音を吸収することによって保たれる一方、静かな公共の場所を見つけるのは困難である。 Acoucité(音響環境観測所)における研究では、都市封鎖の期間中、都市空間で形成される静寂は公共交通機関、自動車、電車、飛行機の稼働の大幅な減少により、通常より「静寂ゾーン」が都市の中で拡大した事で騒音による汚染が減少し、人々の心の健康に前向きな影響を与えたと伝えている。

都市封鎖による静寂が、人との物理的な出会いや、会話やコミュニケーションの質に影響を与え、人々の「リアルな体験」の未来にまで作用する可能性があると言えるのではないだろうか。 しかし、鉄道の駅や主要な交差点では未だに高いレベルの騒音汚染を記録している。普段、騒音は街の至る所にあるため、それが自分たちにどのように作用するかを忘れがちだ。 私はこのプロジェクトを通して、実体が伴わないことから影響について無視してしまいがちな騒音汚染がいかに都市空間に存在しているか、またそれを減少させることで何を学べるかを視覚的に感じられる画像を制作する事で人々の理解を助けたいと考えている。

騒音汚染への意識を高め、将来的にはこの意識を世界のもっと多くの都市や場所に広められることを願っている。 私はBruitParifが制作した地図を元に、各平均デシベルレベルと、自分で録音した音のレベルを結び付けた。 その後専用のソフトウェアを用いてそれぞれの音をモデリングし、対応するデシベルレベルによって変化するようにした。それをビデオに収めて最終的な成果物とした。

地図では<45dB から >75dBのデシベルレベルを表示しており、<45 dBは黒色、>75は白色で示してある。ビデオに収集してある場所は以下:北駅/ガレ・デ・レスト駅(鉄道の駅)、 パリ空港―オルリー(空港)、ビュートシューモン(公園)、エトワール凱旋門(交差点)、ボワ・ドゥ・ブローニュ(大きい公園)。 このプロジェクトは進行中のものであり、私が2018年にスタートさせた騒音汚染に関する研究の一部である。最初に完成させた地図は、騒音汚染の面でよい対照となるパリの十八番街を基にしている。作品の形態は、動く地図であるムービー形式のものと、ムービーの一部をシルクスクリーン印刷したものの2つがあり、人々の議論を喚起するきっかけとしてシルクスクリーン印刷物は街中に設置 / 展示を行った。

Gare du Nord / Gare de l'Est

left : Gare du Nord / Gare de l’Est – Usual
right : Gare du Nord / Gare de l’Est – Confined

Gare du Nord / Gare de l'Est – Usual
Gare du Nord / Gare de l'Est – Confined
Bois de Boulogne

left : Bois de Boulogne – Usual
right : Bois de Boulogne – Confined

Bois de Boulogne – Usual
Bois de Boulogne – Confined
Aéroport de Paris – Orly

left : Aéroport de Paris – Orly – Usual
right : Aéroport de Paris – Orly – Confined

Aéroport de Paris – Orly – Usual
Aéroport de Paris – Orly – Confined

Clémence Althabegoïty

Paris, France

クレマンス・アルタベゴティ

フランス・パリ出身のデザイナー/ビジュアルアーティスト。 文脈に沿った分析と素材のリサーチを用いて、オブジェ、空間、環境をデザインしている。 エコロジーへの意識を原動力に、公害(騒音、大気、地表)や水不足などの問題を批判的に考え、意識を高め、代替的な解決策を生み出すことを目指している。 素材や工芸品のユニークな特性を応用することで新しいメディアを探求し、地域独自の作品を制作する機会として、それぞれのプロジェクトを受け入れている。 2019年に研究建築センター(ゴールドスミス、ロンドン大学)、2018年にパリ国立高等美術学校、2016年にデザイン・アカデミー・アイントホーフェンからそれぞれ卒業した。 彼女の作品は、ロンドンのルーメンギャラリー(2019年)、アイントホーフェン(オランダ)のカゼルネ(ホープ、2019年)とTAC(DDW、2016年)、クーランジュ・コレクティブ(パリ・デザインウィーク、2020年)、パリ(フランス)のコニャック・ジェイ博物館(パリ・デザインウィーク、2016年)で展示されている。

Webサイト:www.clemencealthabegoity.fr

Team

Clémence Althabegoïty – designer and maker

JUDGES, COMMENTS

  • Steve Tidball
    vollebak CEO / 共同創業者

    クレマンス・アルタベゴティ氏の「静寂の地図」にはとても神秘的な魅力があります。
    パンデミックの最中に都市に住んでいる人なら誰でも、通常は騒音で満たされた場所に沈黙が降り注ぐことに気付くでしょう。しかし作家はそれをマッピングすることによって、その観察を本当に美しいものに変えてしまいました。
    作品の視覚的なクオリティだけでも賞賛に値します。

    作品の場所によっては古い石版画のようにも見え、また別の場所は水銀や火に見えます。しかしその本質は作品の見た目の美しさのみならず、目に見えないものを目に見える形にし、テクノロジーを使って美学を見出すというアイディアにあります。またこのアイディアは、一連の静止画よりも動画に大きな可能性を秘めています。
    パンデミックによってもたらされた静寂は、立ち止まり、耳を傾け、考えるための時間を生み出しました。
    このアイディアがパリ、ニューヨーク、ロンドン、東京やその他でライブの映像に変換され、人々が世界の静かな場所を見つける手助けとなることが容易に想像できました。