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the Museum of Edible Earth

masharu studio

the Museum of Edible Earth

Description

土食とは、粘土やチョークなどの土や土に似たものを食べる習慣の学名です。土を食べることは古くから行われており、世界中の多くの文化で不可欠な要素となっています。 The Museum of Edible Earthは、地球上のさまざまな人々がさまざまな理由で食べている土のサンプルのコレクションを中核とする、分野横断的なプロジェクトです。見る者に環境と地球との関係を物理的に問いかけ、食と文化的伝統に関する知識を創造的思考で見直すよう促します。The Museum of Edible Earthは、次のような問いを投げかけます。土を食べるという伝統の背景には何があるのか?食べられる土はどこから来るのか?土を食べることの利点と危険性は?私たち人間は、環境や非人間に対してどのような関わり方を確立しているのか? カオリンやベントナイトなどの粘土、チョーク、石灰岩、火山岩、珪藻土、表土など、35か国から集められた400以上の食用土のサンプルがThe Museum of Edible Earthにはあります。土のコレクションのほかに、グラフィックデザイン資料、写真、映像作品、オンライン食用地球対話型データベース(www.museumofedible.earth)、インスタレーション、パフォーマンスなども展示され、科学者、アーティスト、デザイナー、研究者、文化コミュニティとのコラボレーションを促進しています。

 

The Museum of Edible Earthは、科学とアートの相互交流に貢献しています。動物の土食だけでなく、人間の地中食も科学的に研究されていて、人類学、歴史学、心理学、社会学、化学、生物学などの学術誌に論文が掲載されています。 The Museum of Edible Earthは動く博物館です。土の試食、ワークショップ、ディスカッションに上映会など、参加型のメディアミックス型展示を行っています。

 

免責事項: 土を食べることは、食品当局によって推奨されてはいないため、自己責任でお願いします。

Concept

“彼女は土を食べるようになった…少しずつ先祖代々の食欲、原始鉱物の味、本来の食物の持つ抑えがたい満足感を取り戻していった。彼女は一握りの土をポケットに入れ、人目を気にせず少しずつ食べ、混乱した喜びを感じていた…” – ガブリエル・ガルシア・マルケス(『百年の孤独』)より

 

土食とは、粘土やチョーク、柔らかい岩石など、土や土に似たものを食べることです。古来から、人々は土の神聖さを信じてきました。土に触れたり食べたりすることの重要性は、多くの文化に存在していて、聖書やコーランでは、神が粘土から最初の人間を創造したとされています。アフリカ、南米、アジアでは、土を食べることは、今でも文化的、精神的、あるいは癒しの習慣として一般的です。宗教や国に関係なく、地球は母としての自然を体現しています。 女性、生命を与える力、豊穣、そして血統の継続を象徴しているのです。ある文化では、土を食べることは、自分の起源や自分自身とのつながり、そして活力を与える力とのつながりを取り戻すためのスピリチュアルな実践と見なすことができます。 ヨーロッパやアメリカでは、土を食べることは文化的な伝統でもありましたが、現在ではDSM-IV(精神疾患の診断・統計マニュアル)に含まれる「ピカ」と呼ばれる心理疾患と正式に見なされています。 しかし、オランダでは今でも様々な種類の土食を実践している人がいます。EcoplazaやBiomarktなど、健康ショップで購入できるいくつかの人気ブランドは、公式に内服用の粘土を提供しています。そのほか、タンザニア、ナイジェリア、ガーナ、コンゴ、スリナムなどの粘土が、ラベルのない製品としてオランダ市場の文化店で販売されています。

 

「The Museum of Edible Earth」は、アムステルダム在住のアーティストmasharu(RU/NL – 中性)が、自身のスタジオ「masharu studio」を通して行ったプロジェクトです。その目的は、可能な限り多くの国の、食用として提供されている土を集め、文化的用途や歴史、そして分野横断的なパートナーシップやワークショップ、コラボレーションを通じて、地球を再デザイン、再認識することです。 The Museum of Edible Earthは、2017年から開発・研究されています。モンドリアン基金、 Prins Bernhard Cultuurfonds、Niemeijer Fonds、Creative Industries Fund NL、プリ・アルスエレクトロニカ(2021年優秀賞、カテゴリー:人工知能とライフアート)などの事業体の支援を受け、masharuはこのプロジェクトを一歩一歩形にしてきました。まずはコンセプトを、そして2020年からはより物理的に、専用の展示インスタレーション、オンラインプラットフォーム、サンプルコレクションの調和されたプレゼンテーションなど、徐々に具体化してきています。土食を実践している国々を訪れ、インタビュー、調査、ワークショップ、展覧会などを行い、綿密なリサーチを行いました。

 

このプロジェクトでは、「環境を味わう」という感覚的な体験を通して、環境と持続可能性に関する問題に取り組む革新的な方法を開発しています。私たちのミュージアムは、来館者に地球を味わい、その味わった経験を共有し、環境と私たちの関係や文化の違いをめぐる対話に参加してもらうため、観客が作品の核となるのです。革新的な芸術的作業プロセスを通じて、The Museum of Edible Earthは、地球を食べることに基づいた参加型のインタラクティブなプロセスの中心に観客を置きます。 このプロジェクトは、masharuの個人的な願望に基づいています。自身は子どもの頃から、粘土や陶器を食べたいという願望がありました。よく遊び場で砂を食べていて、学校では、チョークを食べたくて食べたくて仕方がありませんでした。アイントホーフェンの大学で教師をしていた時、ようやく初めてチョークを味わったのです。 そして、その味に病みつきになりました。 土食は、2011年以来、masharuの作品や創作活動において、幅広く、かつ議論を呼ぶテーマとなりました。数年前からmasharuは毎日土を食べていて、個人的な実践と情熱がプロフェッショナルなプロジェクトとして現れています。

 

masharuがアパートを購入し、アムステルダムの住処とした建物の住所はKleiburg(「粘土の埋蔵地」)です。昨年自身は、世界市民権のメタファーとして、素材の収集と陶磁器製品の間のつながりを探りました。自身はこのアイデアを2018年11月、アムステルダムのフラスカティ劇場で行われたAbhishek Taphar演出の公演「Surpassing the Beeline」で初めて発表しました。 以下はこの公演の引用であり、プロジェクトの動機の説明として大いに役立っています。

 

「オランダに住んで11年、私はまだ自身を完全にオランダ人であるとは感じていません。私はこれからも永遠に移民であるのと同時に、ロシア人としての意識も薄れ、『自分は何者なのか』と自問しています。正統派の教会や修道院がある神聖な山で採れた白いチョークをまた食べ始め、そのチョークを私は心から欲していて、素材は自然から直接調達しているような純粋なものなのに腹痛に襲われ、それでも食べることをやめられませんでした。 この1年、私は世界中の土を集めて食べるということを実践してきました。時々、世界市民になったような気分になります。私は、さまざまな国のさまざまな種類の食用土を混ぜ合わせるようにな離ました。この素材には、その土地が経験したことの記憶があり、歴史が残されているのです。私という人間を理解するために、私はこれらの素材に耳を傾けました。それは、移り変わる家、風、乱気流、愛、喪失を経験していて、私が土に伝えるというより、むしろ土が私に教えてくれるのです。地球は私よりも物事をよく知っています。私は、私を支え、私を表現できるような、適切な組成の素材を探したいと思いました。しかし、異なる種類の粘土は互いに反発し合い、流動的なままです。もちろん、私は今でも陶磁器の破片を持ち帰り、食べています。 これは、何種類かの粘土と、オランダの市場で見つけた食用土、フェイスマスク、私の国の粘土と、おそらくオランダの地元の土を混ぜて作った陶器のコップです。一口食べてもいいし、舐めて味わってみるのもどうぞ。私は実践していることを皆さんにお伝えしているのであり、それを受け入れるかどうかは皆さん次第です。もしかしたら、あなたがお茶を飲んでいる間に、すでコップは割れているかもしれません。これらのコップはすべて壊れる寸前ですからね。このプロジェクトは、異なる土壌、異なる社会的・政治的な歴史や記憶の間で交渉している、破断点の上に生きているのです。」

 

免責事項:土を食べることは、食品当局によって推奨されてはいないため、自己責任でお願いします。

Intercoursing Clay

Photography credit

First photo: Museum of Edible Earth | Photo by masharu studio

Second photo: Intercoursing Clay | Collaborative performance of masharu, Kristi Oleshko, Anton Tarasenko and Ekaterina Sleptsova during Potok Festival (RU) | Photo by Evgenija Beljakova

Third photo: Museum of Edible Earth X diptych in love | Product design by Basse Stittgen (NL/DE). Build-up assistance by Asia Semeniuk (PL/NL). Curated by Ola Lanko (NL/UA) in diptych (NL) | Photo by Alexandra Hunts

Fourth photo: Map of the Museum of Edible Earth | Photo by masharu studio

masharu

Amsterdam, the Netherlands

masharu is a creative with a background in science. masharu’s projects combine scientific research with a personal approach and cultural practices. In 2011 they obtained a PhD in Mathematics and graduated with honours from the Photo Academy Amsterdam. In 2013-2014 they participated in the art-in-residency programme at Rijksakademie van Beeldende Kunst in Amsterdam. In 2018 masharu was an artist fellow at the Netherlands Institute for Advanced Study in the Humanities and Social Sciences (NIAS-KNAW). masharu’s artistic as well as scientific work has been exhibited, screened and published in various countries, including Armenia, Australia, Austria, Belgium, China, Croatia, Cuba, Czech Republic, Denmark, France, Germany, Guatemala, Hungary, Indonesia, Italy, Kazakhstan, Kyrgyzstan, the Netherlands, Nigeria, Portugal, Russia, South Korea, Spain, Suriname, Sweden, Ukraine, UK, USA and Zimbabwe, in such venues and events as Art Electronica Center in Linz, Modern Art Museum in Yerevan, Russian Impressionism Museum in Saint Petersburg, African Artists’ Foundation in Lagos, Spanish Cultural Centre in Guatemala City, World Design Event in Eindhoven, ReadyTex Gallery in Paramaribo, 4th Jakarta Contemporary Ceramics Biennale in Jakarta, European Ceramic Workcentre in Oisterwijk, Sustainica in Dusseldorf, 6th Moscow Biennale of Contemporary Arts in Moscow and Museo Maritimo in Bilbao.

 

Team’s name: masharu studio / Founder: masharu / Projectmanagement: SasaHara, Irene Kobalchuk  / Photographic and video production: masharu, Ielyj Ivgi, Alexandra Hunts, Miša Skalskis, Anna Zamanipoor, Anton Melles, Dave Soerjaman, Ielyj Ivgi, Jester van Schuylenburch, Koen de Boer, Mila Blok, Rodney Tang, Jhalisa Rens and Luuk Van Veen / Graphic design: Olga Ganzha, Anna Zamanipoor, Dinesh Basnet, Luuk van Veen, Jhalisa Rens, Rodney Tang and Dave Soerjaman  / Webdesign: Raphaël Pia, Andrew Revinsky and William Ageneau / Product design: Basse Stittgen  / Building assistance: Asia Semeniuk

The Museum of Edible Earth is supported by the Creative Industries Fund NL, Stichting Niemeijer Fonds, Pauwhof fonds and Prins Bernhard Cultuurfonds Tijl Fonds. The work of masharu is supported by the Mondriaan Fund.

JUDGES, COMMENTS

  • 伊藤 亜紗
    東京工業大学科学技術創成研究院未来の人類研究センター長、リベラルアーツ研究教育院教授

    いつでもどこでも足元にある「土」を通して、人間の文化はもちろんのこと、人間のスケールを超えて、私たちの想像力を空間的にも時間的にも拡張してくれる作品でした。そもそも、私はふだん「土とは地球である」ということを意識していませんでした。日本語だと「土」と「地球」はまったく別の単語だからです。しかし、英語では「Edible Earth」は「食べられる土」であると同時に「食べられる地球」でもあります。確かに、地球上の最初の生命にとって、食べ物は地球だったはずです。だとすれば、土を食べるとは、原始の生命の食事を追体験することなのかもしれません。さらに、「食べる」という行為は、私たちの内と外を反転させます。土という「環境=外側」にあったものが「自分=内側」になるからです。そもそも、「環境」とは外側にあるものではなく、自分と一体になったものなのかもしれません。環境を再定義する視点、そしてそれに伴うスリルも、この作品の大きな魅力だと思いました。

  • Cascoland
    アーティスト、建築家、デザイナー、パフォーマー ネットワーク

    データ通信がうまくいくかどうかは、データの見せ方、伝え方、受け手へのアクセスの方法にかかっています。科学的知識は、例えば気候変動、資源とエネルギーの持続可能な利用、より循環的で包括的な社会といった課題に対する答えを持っています。しかし、破壊的なプロセスを肯定的かつ建設的に変えるためには私たちが行動を変える必要があり、そうするために必要な社会とのコミュニケーションを、科学的な知識は十分にとれていないのです。

    同時に、元々は職人や建設業者であったアーティストやデザイナーたちが、研究、考察、革新の領域で科学とますますコラボレーションするようになってきています。このことは、かつては同じ学問分野と考えられていた芸術と科学という異なる実践の間に、新たな相互扶助の機会を開いてきています。アーティストとデザイナーは、世界を解釈するための異なる視点を持つため、科学的な知識や文化的なノウハウなど、異なる知識の泉の通訳となり、橋渡しする能力があるのです。

    「The Museum of Edible Earth」は、異なる分野の異なるアプローチを用いて、科学、文化、食の遺産、そして私たちの環境との関係性や意識を、土というテーマを通して結びつけています。薬用として、あるいは文化的儀式の一環として土を食べていた先祖たちの知識を披露し、共有することで、私たちを取り巻く世界—私たちがどこから来て、どこに属しているのかという関係を、非常に「地球的」な方法で示しています。土のサンプルの魅力的で魅惑的な展示と、土を食べるという意外な習慣の例示は、観客の想像力と好奇心に訴えかけ、この文化遺産の保護に貢献することができます。